(左から)アンディ・ラウ、ディニー・イップ

現在日本でも公開中の感動作『桃〈タオ〉さんのしあわせ』。本作は主演のアンディ・ラウが自らプロデュースも手がけた意欲作だ。アンディは自身の映画デビュー作『望郷 ボートピープル』を手がけた監督アン・ホイを起用し、さらに親子役などで共演してきた名女優ディニー・イップをキャスティング。ディニーは長らく一線から遠のいていたが、本作で見事なカムバックを果たし、見事にヴェネツィア映画祭主演女優賞に輝いた。

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幼い頃から面倒を見てくれていた家政婦が病で倒れ、ひとりの映画プロデューサーは彼女を介護することを決意する…。実話を基にしたこの物語は、そのままアンディとディニーの姿に重なる。香港でアンディとディニーに訊いた。

「ふっと頭に浮かんだのはディニーだった。物事に向き合う基本的な態度、その厳格さが、桃さんとの共通点。素晴らしい女優は他にもたくさんいる。けれども桃さんにいちばんふさわしいのはディニーだと思ったんだ。この映画で描かれているふたりの関係性は、演技では表現できないタイプのものだからね」(アンディ)

この世には、親子以上の絆や愛情で結ばれた人々がいる。そんなシンプルな真理に、あらためて胸を打たれる映画だ。「私たちは、いつも、いつの間にか遭遇しているの。何か、仕組んだような間柄ではないのよ」(ディニー)。「大事なのは人の想いだと思う。現実的な人と人との距離や密度ではなく、その人がどのように自分のなかに存在するのか。人はいつかいなくなる。いつまでも同じ空間にいられるわけじゃない。その人の存在が自分のなかにどれだけあるか…。それが多くのことを決めていると思う」(アンディ)。たとえどんな間柄だとしても、人と人とが一緒にいられる時間は、とても短い。だからこそ、想いが必要になってくる。この映画が世界中の観客の共感を得ているのもそのためだろう。「あらゆるものがスピーディになっている。だからこそ、この映画に描かれている静かな時の流れや感情の流れが、人の心に届くんじゃないかしら。いまの世の中では、それはやはり特別なことなんだと思う」(ディニー)。

『桃さんのしあわせ』

取材・文:相田冬二