大型家電量販店が集結する新宿駅周辺

家電量販店業界が、今、大きく動いている。合従連衡や生き残りをかけた競争が激化するなかで、現場レベルの店舗は、地区のライバルとどのように渡り合おうとしているのか。このレポートでは、地区の特性に合わせて成長を目指す家電量販店の現場を歩き、その地区の現在を浮き彫りにする。第1回は、2000億円規模の家電小売市場をもつといわれる国内最大の家電の街「東京・新宿」。エリア来訪者の減少で一度は市場が縮小したものの、相次ぐ出店ラッシュで再び賑わいを取り戻しつつある地区だ。(取材・文/佐相彰彦)

<街の全体像>

●乗降客300万人超、昼夜ともに賑わう

新宿地区には、新宿駅から地下道でつながる路線・駅を含めると、JR、地下鉄、私鉄の6社局14路線が乗り入れる。JRでは千葉と多摩方面、埼玉へ、西武で多摩・埼玉へ、京王・小田急で多摩・神奈川と、非常に広大な地域と鉄道でつながっている。周辺駅の1日平均乗降客が合計で300万人を超える世界屈指のターミナル駅だ(表参照)。12年9月1日時点での新宿区の人口は約31万9000人だが、この便利な鉄道のおかげで昼間人口は約75万人を数える。また、地方や海外からの観光客も多い。

新宿駅西口には、小田急や京王などの百貨店、ハルクやルミネなどの専門店、周辺に都庁や高層ビル、高層ホテルなどが集まる新宿副都心がある。東側には、駅前に新宿アルタ、周辺に伊勢丹など老舗デパートや専門店、飲食店が密集。北側には歓楽街の歌舞伎町が控え、旧国鉄の貨物操車場跡を再開発した南側には新宿タカシマヤやオフィスビルが建ち並ぶ。

家電量販店は、1963年、新宿東口駅前に地下1階、地上4階建ての大型店舗、カメラのさくらや(当時)新宿東口店が出店。75年にヨドバシカメラが新宿西口本店を開設し、翌年に東口駅前店を構えたことで、競争が激化した。その後、90年代から2000年代にかけては各社が大型店を出店したが、ここ数年は新宿地区の家電販売は縮小傾向をたどっていた。07年6月に吉祥寺駅前にヨドバシカメラマルチメディア吉祥寺店が、10年11月ビックカメラがJR八王子店をオープンしたことで、JR中央線沿線の住民の足は新宿から遠のいた。池袋を本拠とするビックカメラの存在や、また、09年10月のヤマダ電機LABI1日本総本店池袋のオープンも、埼玉県からの客を池袋にとどまらせた。

このような動きから、ベスト電器は新宿高島屋店を09年8月に閉店。さくらやも新宿東口店を10年2月末に閉店し、最終的には事業の清算を余儀なくされた。店舗の閉鎖は、そのまま地区の家電量販市場の縮小につながり、5~10%減少したといわれる。しかしそれでもなお、新宿は、一説には2000億円の小売市場規模をもつ日本最大の家電の街であることに変わりはない。

●相次ぐ出店ラッシュで活性化

新宿地区の家電量販市場の復活を予感させる動きも始まっている。まずはヤマダ電機が、10年4月、歌舞伎町交差点の靖国通り沿いに売り場面積約8000m2の大型店、LABI新宿東口館をオープン。続いて、国道20号沿いにほぼ同規模のLABI 新宿西口館を11年7月にオープンした。また、パソコンショップのドスパラ新宿店が11年12月にオープンしたことも、これまで新宿の家電量販店が抱えていなかった新たな客層の開拓につながった。

さらに、ビックカメラが新宿通り沿いにあった新宿三越アルコットの跡地に、売り場面積1万5000m2の新宿東口新店を今年7月にオープン。さらに9月には、この店舗をユニクロとのコラボレーションで新形態店舗「ビックロ」としてリニューアル・オープンした。オープン日には、約4000人が行列をつくり、ユニクロ効果もあって、店内は女性客を中心に多くの来店者で賑わっていた。

現在、新宿地区の家電量販店は、ここを本拠地とするヨドバシカメラが新宿西口本店と東口にマルチメディア東口店の2店舗、ヤマダ電機がLABI 新宿西口館と新宿東口駅前店、LABI新宿東口館の2店舗、ビックカメラが小田急ハルク内の新宿西口店とビックロの3店舗を構えている。ほかにも、PCパーツショップのドスパラがドスパラ新宿店、ビックカメラグループのソフマップビックカメラ新宿西口店内に新宿西店、新宿2号店と新宿3号店などの専門店を展開している。

●地区復活の鍵は客層にあり オリジナルブランドの充実を

ヤマダ電機の進出や9月27日にオープンした「ビックロ」などによって、新宿地区の家電販売に変化が訪れることは間違いない。ただし、再び家電の街として賑わうようになるための道のりは平坦ではない。日本政策投資銀行によれば、国内家電量販市場は縮小傾向にあり、10年の時点で8兆円あった規模が12年に7兆円まで縮小し、以降は横ばいが続くという。国内全体の家電販売が厳しい状況のなか、家電量販店活性化のカギは何か。

家電量販店のコンサルタントを手がけるクロスの得平司代表取締役は、「来店者層に合わせた品揃えが大切」と説く。メーカー製品の品揃えを充実させることはもちろんだが、「メーカー製品だけでなく、メーカーと共同で開発したオリジナルブランドも充実させるべきだ」と分析している。新宿地区の客層は、西口が会社員や高齢者層、東口が若年層といわれている。会社員や若年者層向けには、「スマートフォンやタブレット端末のアクセサリを充実させ、その店に行かなければ買えない商品を置くことがポイント」という。高齢者層には、「例えば、省エネ機能を搭載する小型冷蔵庫をオリジナルで開発するのが適している」という。子どもが社会人になって実家を離れ、夫婦だけで暮らしている高齢者層は、大型冷蔵庫よりも、機能が充実した小型冷蔵庫を必要としているからだ。

新宿地区の家電量販市場について、得平代表取締役は「現段階では西口が7割、東口が3割を占めている」と捉えている。そして、「ビックロ」のオープンを、「店舗間の競争が激化するというよりも、10~20歳代の女性客など新しい購入者層を新宿に呼び寄せる可能性がある」と期待する。

→東京・新宿(2)に続く(2012年11月1日掲載)

※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年10月15日付 vol.1452より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは