軽量・小型のレンズ交換式デジタルカメラ「ミラーレス一眼」の販売台数が伸びている。レンズ交換が楽しめるという点は従来のデジタル一眼レフカメラと同じだが、見た目はどちらかというとコンパクトデジタルカメラに近い。タッチパネル操作に対応する機種も多く、交換レンズが付属し、すぐに撮影できる「レンズキット」がほとんどだ。価格帯は、デジタル一眼レフの最廉価モデル、コンパクトデジカメの最高級モデルと同程度で、発売から少したった製品ならかなりお手頃だ。昨年夏以降、参入メーカーが増え、存在感が増してきた。手持ちのカメラの買い替えや買い増しを検討している方は、一度、店頭で実機を触ってみよう。

●一眼レフの老舗ニコン、キヤノンも参入 3強体制が崩れる

ミラーレス一眼は、従来のデジタル一眼レフカメラにあったレフレックスミラーがないという特徴をもつ。メーカーによっては、「レンズ交換式アドバンストカメラ」「マイクロ一眼カメラ」「小型一眼カメラ」など、独自の呼称で新ジャンルのカメラとしてアピールしているが、便宜上、記事ではすべて「ミラーレス一眼」と呼ぶ。

ミラーレス一眼を初めて世に送り出したのは、パナソニックとオリンパス。その後、2010年5月にソニーが参入し、しばらく3社の寡占市場だった。昨年夏以降、ペンタックス(現ペンタックスリコー)、ニコン、富士フイルムが参入し、今年9月、デジタル一眼レフカメラではシェアトップのキヤノンが、新開発のレンズマウントを採用した「EOS M」をひっさげて参入した。基本的に、メーカーによって採用するマウントが異なり、例えば、パナソニック、オリンパスは「マイクロフォーサーズ」、ソニーは「ソニーE」、ニコンは「Nikon 1」、キヤノンは「キヤノンEF-M」となる。各マウントの専用レンズに加え、別売のマウントアダプタを使えば、一眼レフ用の交換レンズを使えるものもある。

また、メーカー・機種によって、撮像素子(イメージセンサ)のサイズが異なり、ソニーの「NEX-7」「NEX-F3」やキヤノンの「EOS M」などは、ミラーレス一眼では多数派を占めるフォーサーズ(17×13mm)より大きいAPS-C(23.5×15.6mm)を採用している。APS-Cは、35mmフルサイズに比べるとサイズは小さいが、デジタル一眼レフと同等の高画質な写真を撮影できる。ソニーのミラーレス一眼は以前からAPS-Cのイメージセンサを採用しており、キヤノンの参入でAPS-C陣営に注目が集まりそうだ。

量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、2012年1月から9月までに、ミラーレスタイプのレンズ交換式デジタルカメラを発売したメーカーは8社。メーカー別販売台数シェアは、オリンパス(30.9%)、パナソニック(27.7%)、ソニー(18.8%)、ニコン(15.7%)の順で、上位3社がシェア20%台後半~30%台後半で競っていた昨年までの“3強状態”は崩れつつある。2012年10月は、22日までの途中集計で、オリンパス(28.6%)、ソニー(23.5%)、パナソニック(17.3%)、ニコン(12.8%)に続き、「EOS M」のダブルレンズキットを9月29日に、ボディ単体・レンズキットを10月12日に発売したキヤノンがシェア9.2%で5位に食い込んでいる。

スマートフォンやノートPCなどに比べ、レンズ交換式デジタルカメラはモデルチェンジのスパンが長く、比較的長期にわたって売れ続ける。発売から日がたち、価格がこなれてきた後や、ユーザーの口コミが広まった後、急に売れ始める製品も少なくない。新製品のデザインが女性に好評で、今年に入って3割前後のシェアを常にキープしているオリンパス、「αシリーズ」で初めてタッチパネルを採用した「NEX-5N」や上方向に180°回転するチルト可動式液晶モニタを備えた「NEX-F3」のダブルズームキットが売れているソニーも好調。モデルチェンジに伴う値下がりなど、今後の販売動向によっては、上位5社によるシェア争いが激化するかもしれない。

●レンズ交換型の5割弱を占めるミラーレス、女性ユーザーの取り込みが鍵

2009年9月から2012年9月まで、過去3年間のデジタルカメラのタイプ別販売台数構成比の変化をみると、ミラーレス一眼を含むレンズ交換式デジタルカメラ(デジタル一眼カメラ)の構成比は2010年春頃から徐々に拡大し、2012年9月には過去最大の19.0%に達した。税別平均単価は、2009年秋からずっと下落基調にあったが、ここ1年は落ち着いて、6万円台前半~7万円台前半の間を上下している。

レンズ交換式デジタルカメラ全体の販売台数に占めるミラーレス一眼の割合も徐々に拡大していったが、2010年6月に初めて3割を超えた後、いったん20%台後半に低下した。しかし再び上昇に転じ、2011年7月に初めて4割を突破。2011年12月には48.6%まで上昇し、翌2012年1月は52.4%と、初めて5割を超えた。以降は40%台をキープしている。販売台数はずっと前年を上回っており、伸び率(販売台数前年比)はデジタル一眼レフを超える。

直近の2012年9月のミラーレス一眼カメラの平均単価は5万円台前半。扱いやすそうな小型・軽量ボディや多彩なカラーバリエーション、売り場の拡大、商品ジャンルの浸透などに加え、手頃な価格も人気の理由だろう。

キヤノンの新規参入によって、改めて注目を集めつつあるミラーレス一眼。デジタル一眼レフユーザーのサブ機として、コンパクトデジカメからのステップアップとして、動画も撮影できるデジカメとして、さまざまなユーザーのニーズに応えるために、各社とも工夫を凝らしている。今後は特に、より本格的な撮影にチャレンジしたいと思いつつ、従来のデジタル一眼レフだと「大きすぎる、重すぎる」と手を出しかねていた「女性」をターゲットにしたカメラが増えるだろう。レンズの小型化によって、コンパクトデジタルカメラに近いデザインになり、ファッションアイテム感覚で選べるようになってきた。

2012年1~9月の累計で、メーカー別販売台数シェア3位のソニーは、ドイツで開催されたカメラ・映像機器の見本市「フォトキナ 2012」に出品したミラーレス一眼の新製品「NEX-5R」「NEX-6」を年内に国内でも発表する予定。ともに「Fast Hybrid AF system」と無線LAN(Wi-Fi通信)機能を搭載し、上位機種の「NEX-6」は、販売中の「NEX-7」と同じ有機ELを採用したEVF(電子ビューファインダー)を備える。従来同様、APS-Cサイズのイメージセンサを採用し、キヤノンの「EOS M」の対抗機種になるだろう。特に、レンズも小型化した「NEX-5R」は女性に受けそうなデザインで、今後が楽しみだ。メーカー間の競争が激しくなれば、価格はもっと下がるかもしれない。買いやすくなればなるほど、女性やシニアなど、ユーザー層が広がり、さらなる盛り上がりが期待できる。(BCN・嵯峨野 芙美)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。