『こどもの一生』舞台より 谷原章介 (撮影:引地信彦)  『こどもの一生』舞台より 谷原章介 (撮影:引地信彦) 

奇才・中島らもが1990年に書き上げ、その後幾度かの再演を重ねてきた『こどもの一生』が、11月4日、東京・PARCO劇場にて開幕する。同劇場では14年前にも上演されており、生瀬勝久、古田新太らが出演。現在まで語り継がれるほど、大きな話題を呼んだ伝説的舞台でもある。

「こどもの一生」チケット情報

物語は瀬戸内海の孤島に建つ医療クリニックを舞台に展開する。そこではある意外な精神療法が行われていた。さまざまな理由からストレスに悩み、島を訪れた患者たち。携帯電話もインターネットも繋がらない隔離された状況下で、治療は順調に進んでいるかのように見えた。しかし患者たちが遊びのつもりで始めたあるいたずらが、思いがけない恐怖を呼ぶことになる。

前半では笑顔だったはずの観客の表情が、後半では一気に恐怖でひきつる。そのギャップの大きさこそ、『こどもの一生』という作品が多くの観客を惹きつけてきた理由のひとつといえるだろう。さらに演出のG2は、作品全体のテンポ感を重視。コミカルな前半から怒涛のラストへ。極力無駄をそぎ落とし、ストーリーのおもしろさを際立たせる。またダンス(振付=小野寺修二)や映像(=上田大樹)を効果的に使用し、作品に疾走感とある種の違和感を与えていた。

G2が「みんなキャラクターが豊富で、いい意味で“不良”が集まりました」と語るキャストには、演劇人を中心とした実力派がズラリ。6年ぶりの舞台出演となったのは、柿沼役の谷原章介。「超がつく真面目」とG2が評するように、役への深い洞察力が感じられ、谷原らしい実直でユニークな柿沼像を生み出す。その谷原が「とても自由で、本当に刺激的」と言うのは、柿沼の上司・三友役の吉田鋼太郎。傲慢で嫌味な男という役どころを、まさに体を張った熱演で見せる。ほかに中越典子、笹本玲奈、山内圭哉、戸次重幸、玉置玲央、鈴木砂羽が出演。

初演時にG2は、「今という時代を切り取ったような舞台を書いて欲しい」と中島に依頼した。今回の上演に当たっても新たにリメイクされ、現代を意識させる部分はある。だが多くの人がワクワク感を抱くホラーというジャンル、さらにG2が「とにかく“お話し”がおもしろい」と言い切っていることからも、すでにこの作品はある普遍性を帯びているように感じる。それはつまり、“名作”が持つ絶対的なおもしろさ。G2は最後にこうつけ加えた。「これを見逃すと、ほんの少しですが人生の損失になりますよ」と。その言葉に偽りがないことは、必ずや劇場で証明されるだろう。

公演は11月25日(日)まで東京・PARCO劇場にて上演。その後、大阪、福岡、愛知ほか各地を巡演する。チケットは一部を除き発売中。

取材・文:野上瑠美子