お小遣いが月500円だった子供のころ、漫画の単行本を1冊買うのはかなりの冒険だった。ごく限られた予算内でハズレなど引けるはずもない。自然と本棚には『ドラゴンボール』『ジョジョ』などの鉄板タイトルが並んだわけだ。

大人になってからは経済力に余裕ができ、単行本くらいなら好きなだけ買えるようになった。だが、一方で少年時代のワクワク感が薄れてしまったのも事実。そんな人に試していただきたい漫画の買い方が――“表紙買い”である。

表紙買いとは、あえて中身のわからない漫画を購入すること。ただそれだけだと楽しみも少ないので、ちょっとした作法とコツを書いていきたい。

■ウレぴあ流“表紙買い”の作法

まず、基本的な心がまえというかルールを把握しておこう。

【作法1】第一印象がすべて!心に「ビビッ」と来た漫画を買うべし
【作法2】知名度や出版社に惑わされるべからず
【作法3】恥ずかしい表紙でも堂々とレジへ持って行くべし

たまに恥ずかしい萌え系の表紙だったりすると、女性店員のレジを避けたり、資料代で領収書を切ってもらう不届き者がいるが、これはスポーツマンシップに反する。むしろ漫画に対して失礼だ。購入時のハードルが高いほど、未知の漫画への期待感は高まるとポジティブに考えたい。

■当たりを引くための吟味ポイント

次に、ほとんど事前情報がない中で、どれだけ高確率でおもしろい漫画を引き当てられるか……その見極めポイントを紹介しよう。

【ポイント1】帯のコメント文にセンスが感じられるか?
【ポイント2】人物の絵だけでなく小道具や背景までこだわって描かれているか?
【ポイント3】平積み&書店員の直筆POP付きは期待できる

単行本カバーの帯に有名作家がコメントを寄せているケースもあるが、あれは経験上、意外とアテにならない。むしろ作品タイトルやキャッチコピーが魅力的かどうかで判断したい。

単行本の置き場所や販促用POPも重要で、言うまでもなく表紙が見えやすい平積みなら期待してもいい。店員の推薦文があるかどうかも参考になる。普段から小さくても店員のセンスが自分と似ている書店を見つけておけば、表紙買いの有効なサポートになってくれるはずだ。


■表紙買いの収穫例――筆者のケース

さて、おしまいに筆者が最近“表紙買い”した漫画、3タイトルをお目にかけよう。猫は非売品なのであしからず。












 

【収穫1】





ジゼル・アラン
笠井スイ
エンターブレイン
651円







20世紀初頭と思われるヨーロッパが舞台。実家を飛び出した世間知らずのお嬢様・ジゼルがひょんな思いつきから「何でも屋」を始めることに。まわりを巻き込んでのドタバタ劇や、人々との交流を描く。個人的には今年ベスト3に入るヒット。作者はまだ新人のようだが、たぶん作風と掲載誌から判断して『エマ』『乙嫁語り』で有名な森薫の弟子じゃないかと思う。今後2年以内にブレイクしそうな予感だ。もちろん続きが出たら全巻揃えるつもり。

 

【収穫2】 





貧乏姫ですが何か?
鬼塚たくと
ソフトバンク クリエイティブ
600円






大財閥の娘でやりたい放題だった主人公・姫理恵の実家がいきなり破産。一瞬にしてド貧乏になった元セレブの日々を描いたコメディ。ありがちなシチュエーションだが個々のキャラが立っていて、意外と飽きずに読める。このまま勢いが落ちないなら続きも買いたい。

【収穫3】





巫女と科学の嘘八百万
颯田直斗
ソフトバンク クリエイティブ
600円







飛び級で大学を出た超天才の理系ワガママ娘が、親類を頼って日本にやってきて居候するコメディ。居候先が神社ということで、「ブロンド美少女+巫女服+ハンダごて」という前代未聞の組み合わせが誕生した。絵のうまさとテンポの良さがなかなかのレベル。続きが出るなら買いたい。ちなみに別の書店で買ったのに、【収穫2】の作品と同じ出版社だったことに先ほど気づいた。

こうして最近の収穫を並べると、どうもヒロインのタイプが偏っている気がした。自分は「世間知らずなワガママ娘にふりまわされたい願望」でもあるんだろうか? ちょっと精神的な疲れが溜まっているのかもしれない……。
その真偽はさておき、普段あまり漫画を読まない人でも、たまに表紙買いをやってみると福袋的なドキドキを感じられると思う。それに発掘してきた無名作が後にメディアミックス・漫画賞などで脚光を浴びると誇らしい気分にもなれる。また、無意識にチョイスしたはずの漫画を並べて考察すれば、上記のように簡単な自己診断ができるかもしれない。3冊買っても出費はわずか2000円以内だ。だまされたと思って一度お試しいただきたい。

 

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。