鹿賀丈史 (撮影:吉田タカユキ) 鹿賀丈史 (撮影:吉田タカユキ)

原作は、人並み外れた大鼻を持つ男の純愛を描いたフランスの戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』。脚本・作詞レスリー・ブリカッス&作曲フランク・ワイルドホーンという『ジキル&ハイド』の名コンビが手がけ、2009年に世界に先駆け日本で初演されたミュージカル『シラノ』が、来年年明けともに再演となる。シラノを演じるのは鹿賀丈史。舞台デビュー40周年の幕開きに、この当たり役に再び挑む鹿賀に話を聞いた。

好評だった3年半前の初演だが、大作ミュージカルのワールドプレミアとなると、一から作り上げる現場の大変さは相当なもの。「歌詞やセリフの言葉にしてもステージングにしても、やっぱり手こずりましてね。お客さんはどう受け止められたかわかりませんけど、僕の中にはもう一回やんなきゃいけないなって思いはあったんです。歌詞を直したりセリフをカットしたり、今回は全体的な流れをより良くすることに時間を割いて手直ししています」と鹿賀は言う。

ストレートプレイの名作として知られるこの物語をミュージカル化するというのも、画期的なアイデアだった。「日本人も長く慣れ親しんできた作品ですし、その難しさはありました。こんないい作品をミュージカルにしなくていいんじゃないのというお客さんもいたかもしれない。ちゃんと芝居が観たいから、そこで歌はいらないと。だから今回は“なぜここで歌うの?”というミュージカルの根本に向き合い、セリフ以上の歌の効果を見つけながら作り直していきたいなと思ってやっています」。

そもそもこの『シラノ』は、作曲のワイルドホーンが『ジキル&ハイド』での鹿賀の姿にインスピレーションを受けて、誕生した。「これだけいろんな面を持っている人間を演じると面白いですね。優れた剣士であり詩人であり、非常に洒落たこともしゃべるのに、愛するロクサーヌの前では口も利けなくなっちゃう。そこをふっと乗り越えれば非常に幸せな人生が送れるのに、ひとつコンプレックスを置くことで、人間のおかしさや悲しさが見えてくるんです。ひとりで生きていく孤独を恐れずに自分の意思を曲げないで、心意気で生きた彼のような人はもうめったにいないでしょうね」。

シラノと違って「全く筆マメじゃない。メールも用件だけ」と笑う。ダンディズムの中に愛おしさと弱さをにじませた、あの圧倒的魅力にあふれるシラノはこの人しかできない。公演は来年1月6日(日)から29日(火)まで東京・日生劇場にて。チケットぴあでは、お弁当付きチケットも発売中。大阪公演あり。

取材・文:武田吏都