科学分析の実際(2)――下着をめぐる攻防

今回のサンプルケースでは、依頼者である妻が夫の下着(パンツ)も追加で持ちこんできたというのだ。櫻井氏はその下着からDNAを取り出し、詳しく分析した。そこからは“ぴったり2人分のDNAが検出された”という。パンツにまで他人のDNAが、しかも1人分だけ余計に付いていた……これはキャバクラ遊びなどでは到底考えられない結果だ。いよいよ夫の立場が苦しくなった。

いや、だが再び“待った”をかけて言い訳したい。たとえば「酔い覚ましに入ったサウナの脱衣場で、別の客が間違って自分のパンツを履いてしまった。付着しているDNAは名前も知らないその男性客のもので、断じて『女性のDNA』が付いたわけではない!」と。

櫻井氏はこれをもあっさり切り崩す。「ここを見てください」と指さされたところには、性染色体の分析データが記されていた。Y染色体に対して、X染色体が3倍ほどの比率で検出されている。

学校で習った染色体の知識を思い出してみよう。男性の性染色体はXY、女性はXXだ。

XXXY(検出された性染色体)-XY(夫の性染色体)=XX

単純な引き算である。どう考えても女性の染色体しか残らない。

つまり
→【事実7】彼のパンツには女性1人分のDNAが付着していた。

このやりとり中、記者はまるで法廷ドラマのクライマックスシーンを演じている気分だった(敗北する側で)。苦し紛れに繰り出した“言い訳”の防壁が、ことごとく“科学”という名の銃弾で撃ち抜かれていく。これだけ客観的な事実を積み上げられたら反論の余地は皆無。たとえ金にまかせて敏腕弁護士を雇っても、まず勝てる気がしなかった。

本人の自白に頼らない、目撃者は必要ない、興信所にも依頼しない。それでも動かぬ証拠をつかめる“DNA検査”――今まで漠然とあった浮気調査のイメージが、もはや過去のものだと思い知らされた。