『客家 ~千古光芒の民~』舞台写真 (撮影:岩村美佳) 『客家 ~千古光芒の民~』舞台写真 (撮影:岩村美佳)

中国の南宋時代末期の動乱をモチーフにした、水夏希主演の新作ミュージカル『客家 ~千古光芒の民~』が11月9日(金)、東京・天王洲 銀河劇場にて開幕する。前日の8日に行われたリハーサルを取材した。

ビジネスのために台湾を訪れたアメリカ人実業家のデイビット(坂元健児)が、現地で出会った女性から“客家(はっか)”にまつわる史話を聞かされるところから物語は始まる。客家とは、古代中国の王族の末裔であると言われ、現在も中国南部や台湾などに多く住んでいる漢民族の一派。戦乱から逃れるために移動、定住を繰り返していった民族であり、移住先で原住民からみると“よそ者”にあたるため、その呼び名が生まれた。劇中で語られる史話は、北からモンゴル帝国が押し寄せる南宋時代末期。客家である文天祥(吉野圭吾)は、亡国の一途をたどる宋国を立て直そうと仕官し、その優秀さにより皇帝から重用される。天祥は、国を守るためにモンゴル軍と戦うことを考える。

水が演じるのは、天祥の妹である空(くう)。上京した兄を一途に心配する一面を見せつつも、「奮起せよ、暇なときなどどこにもない、幼いときも壮年も、老年なりとも努力せよ」という客家の教えをその身で体現するように勇ましく、村のリーダーシップをとる強い女性だ。空は、先祖の代から故郷を捨ててまでも戦いを避けつづけてきた客家として、兄が戦いの道を選ぼうとしていることを憂慮していた。そんな折、都で捕虜として囚われていたモンゴル兵が村に迷い込んでくる。敵でありながらも傷ついた兵を介抱する空。捕虜に逃げ帰られては、我が身の都合が悪い宰相は、捕虜捜索の兵を出す。

戦争によって国家が滅亡を迎えるという、歴史が移り変わる壮大なドラマの中で、客家の人々が先祖の教えを守りながらも、それぞれに自らの運命を決めていく姿が印象的だ。その象徴とも言える客家の女性を、水が凛々しく好演している。本作は、歌やダンス、小さな所作ひとつをとってもすべてが中国風。水の踊りも、しなやかでゆったりした動きの中に、小首をかしげたりと愛らしい仕草が入るなど、独特で面白い。随所に入る剣舞や布を使ったダンス、カンフーのようなアクション、目まぐるしい立ち回りも見どころ。「心と心の通う道にこそ、命をかけて守るべき無限の価値がある」という客家の生き様に、ふと自分にとって本当に守るべきものとは何なのかと改めて考えさせられる舞台だ。

TSミュージカルファンデーション オリジナルミュージカル『客家 ~千古光芒の民~』は、天王洲 銀河劇場にて11月9日(金)から18日(日)まで上演。兵庫公演あり。

取材・文:大林計隆

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