女性はスマートフォンをたいていカバンに入れるが、男性はズボンや上着のポケットに入れて持ち運ぶ人が多い。満員電車や行列に並んでいる時など、片手でしか操作できない場面を考えると、画面の大きさが5.5インチ以上になると、「持ちにくい」と感じる人は多いのではないだろうか。 今秋発売になる新iPhoneは、画面サイズとロック解除のUI(ユーザーインターフェース)、カメラ関連などの一部の機能が異なる3機種。歴代iPhoneで最大となる5.8インチの大画面ながら、横幅は4.7インチの「iPhone 8」とほぼ同程度に抑えた「iPhone X」は、スマートフォンの本格的な普及とともに、5年以上にわたって続いてきた本体サイズの大型化に終止符を打つことになりそうだ。

「16:9」の縛りからの開放は、スマホデザインの自由度を高める

フチのほとんどない全画面ディスプレイは、実は「iPhone X」が初ではない。サムスンが海外で今年3月末に発表した「Galaxy S8/S8+」は、フレームを極限までそぎ落とし、画面占有率を高めた、縦に細長い「インフィニティディスプレイ」を採用。大きな画面を望みつつも、これ以上物理的に大きな端末は持ちたくないというユーザーニーズを汲み取って開発したという。日本でも、ドコモとKDDI(au)が主力モデルの一つとして取り扱っている。

「Galaxy S8」「iPhone X」とも、画面サイズは5.8インチ(iPhone Xは正確には5.85インチ)で、黒を深く美しく再現する自発光式の有機ELディスプレイを搭載。解像度は「Galaxy S8」が2960×1440、「iPhone X」が2436×1125ピクセル。横幅は「Galaxy S8」が約68mm、「iPhone X」が70.9mmと、わずかに「iPhone X」のほうが大きい。厚さは7.7mmの「iPhone X」のほうが0.3mmスリムだが、全面ガラスのデザインのためか、「Galaxy S8」よりも重い。

「iPhone X」の発表後、Web関連の開発者やデザイナーから、一般的な16:9の縦横比ではないため、画面の上下に、これまでなかった不要な黒のラインが表示されるかもしれないと、UIの乱れ・機種による不統一を懸念する声があがっていた。そうした欠点にAppleが気づいていないとは考えにくく、従来の「フルスクリーン」の定義を変え、映画館と同じように、100%オリジナルに忠実にコンテンツを再生できるのは、同時に発表したSTB「Apple TV 4K」と組み合わせたテレビだけだと、スマホの役割の見直しを投げかけているように思える。

通信機能を内蔵し、単体で電話をかけられるようになった「Apple Watch Series 3」は、まさにスマホの置き換えとなるもの。常に身につけるデバイスとして、スマホ以外の選択肢が増えれば、ここ数年、変化に乏しかったスマホのデザイン面の自由度はもっと高まるとみているのではないだろうか。「X」は、その最初の一歩だ。

いったんなくしたヘッドホンジャックを復活させることはなく、指紋認証の「Touch ID」をなくして、代わりに顔認証の「Face ID」を採用するなど、新しい試みを取り入れ、価格も従来より跳ね上がっているため、ネット上では、今回の「iPhone X」は期待外れだという声も流れている。

すでに予約受付がスタートし、実質負担額がわかっている「iPhone 8 Plus/8」と、ドコモ以外、まだわからない「iPhone X」。現時点で「iPhone 8 Plus/8」を買うと、迷わず決められるiPhoneファンは少ないだろう。はたして、最終的にどちらが多く売れるのか、予想は難しいところだ。(BCN・嵯峨野 芙美)