さまざまな分野に活躍の場を広げている人型ロボットPepper

販売店の窓口で、オフィスのエントランスで、懸命に働く人型ロボットPepperの姿を目にしない日はないかもしれない。8月にはホテルマイステイズプレミア赤坂、ホテルマイステイズプレミア浜松町、ホテルマイステイズ五反田駅前が日本で初めてPepperをホテルコンシェルジュに採用。活躍の場を縦横無尽に広げている。 ところで、Pepperがなぜ“Pepper”という名前になったかご存知だろうか。意外と知らないPepper開発秘話を、開発に携わったソフトバンクロボティクスのコンテンツマーケティング本部 蓮実一隆 取締役本部長と事業推進本部 事業企画統括部 事業企画部の角田友香 部長に聞いた。

2010年に発表されたソフトバンクの新30年ビジョンでロボット事業の参入を決定。そこから4年という短い月日で、Pepperの発表に至った。「コミュニケーションロボットがはじめから前提にあったわけではないが、ソフトバンクの強みであるソフトウェアやデータを活用するという方針は一貫していた」と蓮実取締役本部長は語る。

開発にあたって最も難航したのが、フェイスデザインだ。現在の中性的な顔立ちは試行錯誤の結果、辿りついた。トータルで候補は1000以上あり、最終的に孫会長が決定したという。「ロボットといえば、アトムやベイマックスなど、さまざまなイメージがある。どこに合わせればよいのか、非常に頭を悩ませた」と蓮実取締役本部長は当時を振り返る。媚びるではなく、賢くみえすぎるでもなく、バランス調整も最大限に気を遣った。

名称も紆余曲折を経て「Pepper」に落ち着いた。「プロトタイプ時代の名称は『太郎』。14年6月の初披露のときには、孫会長も一度間違えて『太郎』と呼んでいる(笑)」(蓮実取締役本部長)。「Pepper」の由来は「孫会長とアルデバラン・ロボティクス社のブル-ノ・メゾニエCEOのみぞ知るところ」とのことだが、決定したのは発表3か月前。ギリギリのタイミングまで熟考されたという。

移動が二足歩行ではなくローラーになっているのにも理由がある。駆動時間を左右するバッテリだ。当初から「ソフトバンクショップの店員として働かせよう」というコンセプトがあったので、店舗の営業時間=10時間は自立して稼働させるというのは絶対条件だった。技術的に不可能ではないが、二足歩行だとどれだけ頑張っても1時間もたない。早い段階で移動制御を二足歩行にするのは断念し、いかに長時間、自然な動きで業務をこなせるかを重視した。

移動手段以外にも実務に重きを置いている要素はある。例えば、Pepperとコミュニケーションをとるインターフェースの役割を果たす腹部のタブレット端末。現状の音声認識だと人間ほど自然に会話することは難しいので、まずはタブレットを搭載し、円滑なコミュニケーションができるようにした。

人間っぽさという点では、関節が多く指紋まである指先に注目してほしい。握力は弱く物を掴んだりはできないが、その表現力の高さはPepperをPepperたらしめている要素といえる。角田部長もお気に入りというパーツで、常に自然な動きをすることで、まるで意志をもっているように見せ、コミュニケーション可能な対象だと人に認識してもらう狙いがあるという。

角田部長はPepperを店舗でより活躍させるためには「人間の店員と同じ」という認識が必要だと語る。「デキる店員とそうでない店員の差はそのままPepperにも当てはまる。『寄っていってください』と呼び込むのではなく、『今なら○○がお得です』『タイムセール中です』など具体的な内容をスクリプトに入れると断然効果は上がる」。キャラクター性に頼らずとも、ちょっとした工夫でPepperはもっと業務に貢献できるようになる。

「一からスクリプトを設定するのが大変」という声もあるので、ソフトバンクロボティクスでは業界別にスクリプトの定型を用意しているという。このほかにも、Pepperがより使いやすくなるように、専用のコスチュームやアクセサリの販売にも注力する。Pepperは決して今が最終到達点ではない。真のビジネスパートナーとなるまで、その進化は止まらない。(BCN・大蔵 大輔)