出産すると、それまでどんな個性で生きてきたかも関係なく、自分の中の「いい母親」イメージに捕らわれて「私ってなんてダメな母親なんだ」と無駄に落ち込みすぎてしまうことってありませんか?

「母親なんだから」という世間の無言の圧力も、人によっては感じる瞬間があるかもしれません。

作家・山崎ナオコーラさんが子どもを出産してからの1年間をつづった育児エッセイ『母ではなくて、親になる』はタイトルの通り、山崎さんが妊娠中に決めたという「母ではなくて、親になろう」という考えが表れている、まさに「理想の母親の呪縛」から逃れたい人にはぜひ読んでみてほしいオススメの一冊です。

今回は、著者の山崎さんに「母親だから、と気負わないで過ごせば、世間で言われている『母親のつらさ』というものを案外味わわずに済む」という本書の中の一文にあるような、子育ての中のさまざまなジレンマから解放される考え方などについて、お話を伺いました。

自分の考えや経験にも自信を持ってみる

――『母ではなくて、親になる。』というタイトルがとても印象的です。世の女性たちが「母親だから」と気負ってしまう心理ってありますよね。

山崎ナオコーラさん(以下、山崎)「『素敵な母親イメージ』に向かって努力することでキラキラできる人と、そのイメージを負担に感じてしまう人と、両方いると思うんです。

キラキラできる人は、母親イメージを大事にする方が絶対に良いと思うんですが、暗い気持ちになる人は、いったん『母親』という言葉を忘れて、『ただの親でいい。愛情と責任があれば十分』と考えてみるのもオススメです」

――同じように、『母乳神話』というのも『母親とはこうあるべき』の延長にある気がします。

山崎「精神論で母乳が出るわけがないのですが、部活のように『気合で出す』という考えが残っているのかなあ、と感じることがあります。

『努力の結果として母乳が出せた』という経験を持つ人の武勇伝は、『頑張りましたね』と褒めながら面白い話として聞いて、『でも、自分の場合は違うかもしれない。努力したって上手くいかない場合もある』と自分の考えや経験にも自信を持つことが大事かな、と思います」

――産後3ヶ月くらいまでは先が見えない育児の辛さにノイローゼになりがちですが、そういったことがなく「大変さを味わっていない」と書かれていますよね。わりと負のスパイラルに陥りがちなこの3ヶ月を、なぜ楽しく乗り切れたんだと思いますか?

山崎「私は運が良かっただけで、『こうすれば、誰でも産後を乗り切れる』という方法はないような気がします。赤ん坊の睡眠の癖や、他の家族のいそがしさ、自分の体調など、本当に様々なので。

ただ、夫が赤ん坊を見ている間に、ひとりで外を一時間でも散歩すると、かなり気分が変わったなあ、というのを覚えています。

もしも、産後うつになってしまった場合は、病気にかかってしまったということで、他の家族に頼ったり、休んだり、治療したりが必要で、気合や努力でどうこうできることではないと思います」