今秋発売の「ウォークマン Sシリーズ」のスピーカー付属モデルと「ウォークマン Fシリーズ」のBluetoothヘッドホン付属モデル

スマートフォンに需要を奪われているといわれながらも、コンスタントに売れ続けている携帯オーディオプレ―ヤー。今秋は、ソニーの「ウォークマン」ではスタンダードな「Sシリーズ」やAndroid搭載の「Fシリーズ」が、アップルの「iPod」では「iPod touch」が人気を集めている。価格が手頃なので、自分用としてだけではなく、クリスマスやバレンタインデー、誕生日など、さまざまなイベントのプレゼントとしての人気も高く、特に年末年始は、例年、年間で最も多く売れる時期だ。今年もこれから、学生やファミリーが家電量販店の携帯オーディオ売り場に集まるだろう。

●「ウォークマン」のソニー、「iPod」のアップルの2強体制が続く

家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」の携帯オーディオプレーヤーのデータで、2011年、ソニーは、それまで8年連続1位だったアップルを15.5ポイント上回る54.1%のシェアを獲得し、初めて年間メーカー別販売台数1位に輝いた。

月次集計では、アップルは2002年8月から10年7月まで96か月、およそ8年にわたって1位を獲得していた。しかし、10年8月にソニーに初めて逆転され、いったんは1位に返り咲いたものの、10年12月から12年10月までは2位にとどまっていた。その間、シェアは30%台前半~40%台前半と低迷し、1位のソニーとの差は最大28.4ポイントまで広がった。直近の12年11月は、新製品を発売したアップルが丸2年ぶりにトップを奪還したが、累計での差は大きく、12年もソニーが年間1位となる見込みだ。

スマートフォンの普及、アップルの方向転換、他のメーカーの撤退など、外的要因が多くあったとはいえ、ついにアップルを追い抜いたソニーは、販売台数だけではなく、売上規模を図る指標となる販売金額でも、11年9月に初めてアップルを上回ってトップに立った。以来、11年11月、12年11月を除いて1位を獲得している。1万円台後半~3万円台と比較的高価な「iPod touch」が主力のアップルに比べると平均単価は低いが、販売数でカバーしている。

携帯オーディオプレーヤーの月間販売台数は、この2年、前年並みか前年を下回る水準で推移し、全体的に縮小傾向にある。しかし、ソニーに限ると、11年7月までずっと前年を上回り、伸び続けていた。好調の理由について、ソニーは、「中学生・高校生などの若年層、音質にこだわるユーザーのニーズをつかんだから」と分析。ウォークマンに「iTunes」から楽曲をドラック&ドロップで転送できるようにするなど(DRM付きの楽曲を除く)、iPodからの買い替えを容易にしたこともプラスに働いただろう。ただ、12年に入ると売れ行きはやや鈍化し、4月以降、販売台数は前年比7~9割にとどまっている。アップルから半歩遅れて、スマートフォンの爆発的な普及の影響を受け始めた印象だ。

●音楽プレーヤーとしての音質や使い勝手にこだわる「ウォークマン」

iPhone/iPadと同じiOSを搭載し、カメラやゲーム機にもなる多機能プレーヤー「iPod touch」を主軸に据え、カメラ性能や他のiOS搭載デバイスとの連携性を強化していくアップルとは対照的に、ソニーは、あくまでも音楽プレーヤーとしての性能を重視し、「音質や使い勝手にこだわるなら『ウォークマン』」と、優位性をアピールする。

「ウォークマン」は、周囲の騒音を約98.0%カットする「デジタルノイズキャンセリング機能」をはじめ、さまざまな「クリアオーディオテクノロジー」を搭載。音質がいいと評判だ。独自の歌詞表示機能「歌詞ピタ」や、PCを使わず、別売のケーブルを使ってCDプレーヤーなどから直接楽曲を録音できる「ダイレクト録音」にも、ほぼすべてのモデルが対応する。また、昨年秋以降に発売した主要モデルはBluetoothに対応し、Bluetooth対応スピーカーに接続すればワイヤレスで音楽を再生できる。後追いで、アップルの「iPod nano」も今年発売の第7世代モデルからBluetoothに対応した。

音楽再生をメインに、写真や動画も再生できるソニーの主力モデル「ウォークマン Sシリーズ」の実勢価格は、プレーヤー単体の8GBモデルで1万4000円前後。OSにAndroidを搭載し、「Google Play」からアプリやゲームもダウンロードできる多機能プレーヤー「ウォークマン Fシリーズ」も、最も安い16GBモデルなら2万円前後で購入でき、同じ16GBモデルなら「Sシリーズ」と3000円程度しか変わらない。「Fシリーズ」は、Android端末として、かなり低めの価格設定ながら、フルデジタルアンプ「S-Master MX」、「デジタルノイズキャンセリング機能」搭載、高音質圧縮フォーマット「FLAC」対応など、音楽プレーヤーとしての性能も充実し、さまざまな用途で活用できる。

カラーを合算した2012年11月の携帯オーディオプレーヤーのシリーズ別1位は、第7世代「iPod nano」、2位・3位は第5世代「iPod touch」の32GB・64GBモデルだった。4位から10位までは、今秋発売の「ウォークマン Sシリーズ」の「NW-S774」、「ウォークマン Fシリーズ」の「NW-F805」をはじめとした「ウォークマン」の「S/E/Fシリーズ」と、「第5世代iPod touch」の発売に合わせて追加された容量16GBの「第4世代iPod touch」、カラーと質感を一新した新しい「第4世代iPod shuffle」が並ぶ。

アップル製品を容量別に合算すると、16GBモデルだけの「第7世代iPod nano」より「第5世代iPod touch」のほうが多く売れている。新旧問わず、ブランドごとに集計すると、「iPod touch」がiPodシリーズ全体の販売台数の54.6%を占めた。

ソニー製品で一番人気の「ウォークマン Sシリーズ」は、プレーヤー単体の「NW-S774」(4位)に続き、本体カラーとマッチしたスピーカー付きモデル「NW-S774K」(7位)が売れている。外出先ではイヤホン、自宅ではスピーカーと、利用環境に応じて使い分けられるスタイルが好評のようだ。ブルーやライトピンク、ゴールドなど、計8色のカラーバリエーションを揃え、家族や恋人へのクリスマスプレゼントには最適だ。ソニーストア限定で、女性向けにスワロフスキー・エレメントをあしらったプレミアムデザインモデル「スノーキルト」も販売している。

計5色のカラーバリエーションを揃える「ウォークマン Fシリーズ」は、12月から本体システムソフトウェアのアップデートを実施し、「ダイレクト録音機能」や「プレイリスト作成機能」、ソニー製のブルーレイディスクレコーダーやネットワークレコーダー・メディアストレージ「nasne(ナスネ)」などで録画したテレビ番組を視聴できる「DTCP-IP」に対応する。Android搭載、独自のテクノロジーをふんだんに盛り込んだ妥協のない音質と多機能、そして16GBモデルで1万9800円、32GBモデルで2万4800円(いずれもソニーストア価格)という価格設定は、かなり魅力的だ。

携帯オーディオプレーヤーは、スマートフォンとは違って、一度買ってしまえば、月額課金型の有料アプリを買わない限り、維持費はかからない。12年11月の携帯オーディオプレーヤー全体の平均単価は約1万6000円で、収入のない学生の小遣いでも買える価格だ。「ウォークマン Fシリーズ」や「iPod touch」など、モバイル端末向けOSを搭載した機種は、無線LAN環境さえあれば、ほぼスマートフォンと同じように利用でき、モバイルOSとタッチパネル操作の入門機としても最適。専用機には、専用機ならではのよさがある。音楽再生を中心に使うなら、あるいは費用をできるだけ抑えたい、スマートフォンだとバッテリ駆動時間が短くて不安などと考えているなら、携帯オーディオプレーヤーに目を向けよう。(BCN・嵯峨野 芙美)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。