『ダイヤルMを廻せ!』と『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』

今週末にファンタジー大作『ホビット 思いがけない冒険』が、来年1月に巨匠アン・リー監督の新作『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が公開される。まったくタイプの違う2作だが、どちらも3D映画の“次の扉”をひらくと言われている作品だ。最初の流行から約60年。3D映画はどのように進化していくのだろうか?

その他の画像

現在、日本の映画館では毎日どこかのスクリーンで3D上映が行われている。“ブーム”と呼ばれる時期を終え、完全に上映形態のひとつとして定着したといっていいだろう。60年前に最初に3D映画が流行した際は大きなブームを呼んだが、定着することなく3D映画は市場から姿を消し、それ以降も、3D映画は劇場に姿を見せては観客から忘れ去られていった。このほど発売された書籍『3D世紀 驚異!立体映画の100年と映像新世紀』は、これまでの3D映画の歴史、方式、作り手たちの奮闘、社会的な反響を網羅しながら、3D映画の現状と未来にまで迫った大著で、本書には約60年に渡る3D映画の盛衰が数々の貴重な図版と共に描かれている。

結果的に3D映画としては公開されなかったが、巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督が1954年の映画『ダイヤルMを廻せ!』を3D映画として撮影していたというエピソードは映画好きの間では有名な話だ。しかし当時の3Dは粗悪なものも多く、長時間の観賞には決して向いていなかった。風向きが変わったのは2005年前後。ジェームズ・キャメロン監督が3D映画の世界に参入し、自ら研究・開発を重ねて2009年に自作『アバター』で“デジタル3D時代”の幕開けを宣言した。

そんな3Dの世界も現在、さらなる進化を遂げている。『ホビット…』では、ハイ・フレーム・レート3Dと呼ばれる新方式での上映が決定。これは1秒間に上映されるフレーム数を増やすことでさらにキメの細かい立体視を可能にするものだ。また、作り手たちの3D映像に対する意識も変化している。巨匠アン・リー監督は、新作『ライフ・オブ・パイ』を3Dで撮影。完成した作品を観たキャメロン監督は「3D映画を見ているという感覚さえも忘れてさせてくれる。これこそ3D映画のあるべき姿だ」とコメント。“見世物”的要素が強かった3D映画の世界に新風を巻き起こそうとしている。

3D映画がどんな進化を遂げるのかについては、そもそも“観客は本当に3D映画を観たがっているのか?”という問題と密接な関係があり未知数だが、そのヒントは書籍『3D世紀 驚異!立体映画の100年と映像新世紀』をじっくりと読むことで見えてくるのではないだろうか?

『3D世紀 驚異!立体映画の100年と映像新世紀』
発売中
著者:大口 孝之、谷島 正之、灰原 光晴
定価:3990円(税込)
発行・発売:株式会社 ボーンデジタル