『ポリグラフ ~嘘発見器~』  撮影:引地信彦 『ポリグラフ ~嘘発見器~』  撮影:引地信彦

演劇で人間関係を表すのに最も小さい単位“三人芝居”をテーマに、東京芸術劇場が企画したシリーズ。その第1弾である『ポリグラフ 嘘発見器』は、世界的な演出家でパフォーマーでもあるロベール・ルパージュの作品を、吹越満が実際の稽古を通して練り直し、新たな演出でおくる舞台だ。キャストは吹越のほかに、フランス人と日本人の血を引く美貌が印象的な太田緑ロランス、俳優活動だけでなくダンサーとしても国内外の舞台に立つ森山開次の3人。初日が開いたばかりのその舞台を、東京芸術劇場・シアターイーストで観た。

『ポリグラフ ~嘘発見器~』チケット情報

カナダの都市ケベック。駆け出しの女優ルーシー(太田)は、地下鉄の飛び込み事件を目撃したのをきっかけに、犯罪学者デイヴィッド(吹越)と親しくなる。2人はルーシーの友人フランソワ(森山)の働くレストランで食事をするが、デイヴィッドはフランソワが以前担当したポリグラフの被験者であることに気づく。数年前に起きた凄惨な殺人事件にフランソワが関わっており、さらに新作映画で演じる役がその事件で殺された女性ということを知るルーシー。3人の関係は、次第に奇妙な様相を見せ始め…。

ルパージュの舞台は“フィジカルシアター”(身体と言語が融合した作品)と呼ばれ、芝居と強い身体的表現、さらに映像での効果を取り入れたアーティスティックな構成が特徴。美学に貫かれた世界観を構築するため、キャストは高い身体能力と共に、全編にわたって常とは異なる緊張感を強いられる。自らが演出と主演を兼ねるシリーズで同じく身体表現を追求してきた吹越だが、今回はルパージュという他者の演出作法をベースに、オリジナルの文脈で咀嚼した吹越版『ポリグラフ』を展開してみせる。

本作は吹越いわく「我々3人の“ポリグラフズ”というユニットが演じている」体裁をとっているとか。キャストはしばしば舞台端のパーテーションの影にたたずむところを客席から目撃され、過去の殺人事件が明らかになってゆくステージ中央では、ルーシーとフランソワ、デイヴィッドの記憶がフラッシュバックのように挿入される。スローモションさながらにゆっくりと倒れ込むルーシー、クラブで激しくトリップするフランソワ、過去のとある記憶に何度も戻ってゆくデイヴィド。観る者は3人の現在と過去、そして“ポリグラフズ”が演じる今を行き来しながら、次第に誰かの夢に入り込んでゆくような心地よさに襲われる。危険と知りながら、美しい誘惑者たちに身を委ねたくなるような。そんなスリリングな魅力にあふれた1本である。

公演は12月28日(金)まで東京芸術劇場 シアターイーストにて。その後、2013年1月13日(日)から14日(月・祝)までまつもと市民芸術館(長野)、1月20日(日)えずこホール(宮城)、1月26日(土)から27日(日)までシアター・ドラマシティ(大阪)にて上演。

取材・文 佐藤さくら