「大学時代 貴方のタバコになりたいって思ってました」

『窮鼠はチーズの夢を見る』
水城せとなによる切なさ全開のラブストーリー。

今ヶ瀬には大学時代から好きで好きでたまらなかった先輩の恭一がいた。しかし恭一はノンケで彼女もおり、今ヶ瀬は自分の気持ちを封印したまま卒業する。
そんな恭一とひょんなことから再会し、ようやくいい感じになった今ヶ瀬。ところが、そこに恭一と大学時代の彼女が現れて……。

この物語では、今ヶ瀬も恭一もどちらもタバコを嗜みます。そしてそのことが、次のような印象的なシーンを生み出すのです。

大学時代に恭一のことが好きで、でも言い出せなかった今ヶ瀬は、あるとき恭一が捨てようとしたライターをもらいます。それは恭一が元カノからもらった物で、今ヶ瀬にとっては見たくもない物だったのですが、同時にそれは今ヶ瀬と恭一をつなぐただひとつの物でもあったのです。

その後、恭一が大学時代の彼女と再会したとき、同席した今ヶ瀬はそのときのライターをさりげなく使い、彼女に見せつけて牽制します。このときの今ヶ瀬の小悪魔的な振る舞いと、その裏にある恭一を奪われたくないという必死な思いが透けて見えて、もうなんとも言えず切ない気持ちになるのです。

続編の『俎上の鯉は二度跳ねる』での今ヶ瀬のセリフが印象に残ります。

「大学時代 貴方のタバコになりたいって思ってました」
「貴方に啄まれたり 噛まれたり 弄ばれたりしたいって…馬鹿でしょう」

時に人と人とをつないだり、あるいは報われぬ恋の思い出を閉じ込めたり……タバコにはそうした役割があるのかもしれませんね。