特別講義より。霧矢大夢 特別講義より。霧矢大夢

11月から始まる舞台『この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌』。36歳の若さで自ら人生に幕を閉じた女性作家ネリー・アルカンの4本の小説をコラージュしたこの作品の上演を記念して、9月、朝日カルチャーセンター新宿にて、「ネリー・アルカンの世界~愛と激情に生きた作家」と題して特別講義が開催された。登壇したのは、出演者のひとり霧矢大夢と、ネリーのデビュー作「ピュタン─偽りのセックスにまみれながら真の愛を求め続けた彼女の告白─」を翻訳した松本百合子。ネリーとはどんな女性だったのか。彼女の小説は舞台でどう表現されるのか。舞台のプロデューサーである毛利美咲の司会で進んだトークから、その片鱗が見えてきた。

舞台『この熱き私の激情』チケット情報

ネリーのデビュー作に松本が取り組むのは実はこれが2度目だ。2006年に「キスだけはやめて」のタイトルで出版されたものを、この度の舞台上演と、映画「ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で」が10月より公開されることを機に、新たに翻訳し直したのである。そこに描かれているのは、高級コールガールだった時代のこと、自分が生まれる前に亡くなった姉がいたこと、それゆえに両親に愛されていないと感じていること、そして“女”であることなど、自身の生きづらさだ。再びその世界に向き合った松本は、「ネリーは、美しくならねばならない、若くなければいけないと、いろんな“ねばならない”を抱えて、自分をがんじがらめにしていた人。悲痛な叫びがより強く聞こえてきた」と話す。

女として生きることのそんな葛藤や抑圧は、「ネリーほど極端でなくても、どんな女性も感じること。女性としての自分の存在意義を問う瞬間って、どなたにもあると思うんです。だからこそ、舞台ではそこを探求していきたい」と語るのは霧矢だ。だが、「ただ痛みを表現するだけの作品ではない」とも強調する。舞台では、6人の女優とひとりのダンサーが、ネリーが抱え小説に著したテーマをそれぞれに表現することになる。霧矢が担うのは、亡き姉や家族など血縁を語る“血の女”だが、「一人ひとりの女優が放つものによって、闇の中に光が見えたらいいなと思うんです。演劇のすばらしさはそこにあると思うので」。松本も付け加える。「ネリーは自ら死を選びましたが、生と死は表裏一体、それだけ生きたいというエネルギーが強かったんだと思います。その人生は一瞬一瞬が光っていたのではないでしょうか」。身をもって生きることを問いかけたネリーのその激しい魂は、この日の会場を早くも震わせていた。

舞台は11月4日(土)から19日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場にて上演。その後、広島、福岡、京都、愛知を巡演。

取材・文:大内弓子

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