「フィデリオ」制作発表記者会見より(左から)ダニエル・ウェーバー(ドラマツルグ)、カタリーナ・ワーグナー、ステファン・グールド(フロレスタン役)、飯守泰次郎 撮影:宮川舞子 提供:新国立劇場 「フィデリオ」制作発表記者会見より(左から)ダニエル・ウェーバー(ドラマツルグ)、カタリーナ・ワーグナー、ステファン・グールド(フロレスタン役)、飯守泰次郎 撮影:宮川舞子 提供:新国立劇場

開場20年目のシーズンを迎えている新国立劇場で10月12日、来年5・6月に20周年特別公演として上演される新演出の《フィデリオ》(ベートーヴェン)の制作発表会見が行なわれた。愛と自由が全編を貫くベートーヴェン唯一のオペラ。ドイツ・オペラ史上最重要の古典をどのように描くのか。公演を指揮する飯守泰次郎や演出のカタリーナ・ワーグナーらがそれぞれの思いを語った。

新国立劇場オペラ「フィデリオ」のチケット情報

飯守にとっては、2014年から4年間の任期を務めた芸術監督としての最後の指揮公演となる。「ベートーヴェンは、ワーグナーと並んで私が最も深く掘り下げてきた作曲家。任期の締めくくりとして《フィデリオ》に取り組めるのは大変意味のあること。ベートーヴェンの理想主義と哲学が表現された、深い感動をもたらす特別な作品。《フィデリオ》と聞いただけで身が引き締まる」(飯守)

《フィデリオ》に描かれているのは、政敵に囚われた夫フロレスタンを救うため、男装して監獄に乗り込んだ妻レオノーレの命がけの愛。夫婦愛が軸となる。「身を焦がすような恋も、浮気も裏切りもない夫婦愛はオペラにはなりにくいテーマ。悲劇が足りないという人もいるが、この作品はそんな俗説を超越して、より深く、より高貴な人間性という理念を追求している。声楽的オペラというより、むしろ器楽的で、歌手にも高度な技術が要求される。しかも気品とパワーが必要な、ある意味ワーグナーより難しいオペラ」(飯守)

演出はバイロイト音楽祭総監督のカタリーナ・ワーグナー。リヒャルト・ワーグナーの曾孫でもある。父ヴォルフガングは20年前に新国立劇場開場記念公演の《ローエングリン》(ワーグナー)を演出しているので、父娘2代にわたる演出家としての登場となる。

「《フィデリオ》に新しい視点を提供したい。大きなテーマとなるのは、人はどのように認識するかということ。同じものを見ても人それぞれ異なる認識を持つ。たとえばレオノーレは女性だけれど男性として認識される。それをもう少し広く考えてもよいのではないか。人物だけでなく「自由」がどのように認識されるのかも考えなければならない。オペラではピツァロとフロレスタンの関係もはっきりとは見えてこない。最終的にどちらが勝ったのかわからないまま終わってしまう。そういうこところにも注目して解釈している。驚くかもしれないけれども、どうぞ楽しみに」(ワーグナー)

飯守も「新国立劇場から世界に発信する《フィデリオ》にふさわしい新鮮な舞台を期待」と語る新プロダクション。保守的なアプローチではない、より心理的な解釈の舞台になりそうだ。

出演はステファン・グールド(フォロレスタン)、リカルダ・メルベート(レオノーレ)、妻屋秀和(ロッコ)、ミヒャエル・クプファー=ラデツキー(ドン・ピツァロ)、黒田博(ドン・フェルナンド)ほか。初日は2018年5月20日(日)、東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。チケットは来年1月27日(土)午前10時より一般発を予定している。

取材・文:宮本明