『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』を監督したアン・リー(C)2012 TWENTIETH CENTURY FOX FILM

『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞を受賞するなど、今や世界的な名匠として知られるアン・リー監督。新作『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が再び賞レースを賑わせている彼が、その注目の新作について語ってくれた。

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アン・リーほどあらゆるジャンルに挑戦し、そのジャンルの地平を拡げてきた監督もいない。ならば彼が自分にとっては初体験のジャンル、ヤン・マーテルのベストセラー冒険小説『パイの物語』を映画化することに何ら不思議はないのかもしれない。「私に言わせればこれは“運命”ですね(笑)。なぜなら原作が出版されたときにすぐに読み、自分でも驚くほど魅了されてしまったのです。映像が次から次へと目に浮かぶんですから! とはいえ、それが実際に映像化できるかというとまた別問題。途方もない資金と技術が必要になるのは明らかでした。ところが、5年前です。スタジオから監督しないかと打診されたのです。ほら、まるで運命に導かれたようでしょ?」。

リー監督に行き着くまでの本作の監督候補には、M・ナイト・シャマランやジャン・ピエール・ジュネ、アルフォンソ・キュアロンの名前が挙がっていた。彼らがプロジェクトから離れていったのも、映画化困難だったからにほかならない。「そう、いろんな問題が山積みでした。たとえば構成です。私はこの現実離れした物語を、誰もが信じられるようにするため、中年になったパイに物語を語らせるという方法を選びました。第三者が一人称で語ることで、観客はその話を体験すると同時に吟味できるからです。そして、それ以上の難問は映像でした」。

映像こそ本作の命であり本作の魂。海の表情を驚くほど豊かに、信じられないほど雄弁にとらえている。それは3Dだからこその美しさでありスペクタクル。海がもうひとりの主役としての役目を存分に果たしているのだ。「3Dは私にとって絶対でした。これも3Dにすることで第三者の観点を手に入れることができると思ったからです。もうひとつは水と3Dの相性です。3Dで水をとらえると、まったく異なる感覚を手に入れられる。つまり観客は海を体験できるのです」。

賞レースの時期を迎え、ハリウッドでは様々なウワサが飛び交っているが、そのなかでも有力候補の筆頭に挙げられているのが本作。アカデミー賞でも注目されるのは間違いない。「そうなったら私も嬉しいですね。3000人ものクルーが私のため、この映画のために4年間も働いてくれたのです。もしそんなことになれば、大きな励みになるし刺激にもなる」。賞を取るのも“運命”。そう思える力がこの映画にはあるのだ。

『ぴあ Movie Special 2012-2013』より 

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』

『ぴあ Movie Special 2012-2013』
発売中