【映画】ソーシャルメディア時代に変化する映画上映の新スタイル

一般の人々が有志で映画を上映する“自主上映会”が、全国各地で盛り上がりをみせている。公共施設のホールなどで行われる上映会には多くの観客が集まり、上映終了後は監督や主催者と観客が熱いトークを繰り広げる。そんな自主上映会ブームの背景からは、ソーシャルメディア時代に求められる、映画上映の新しいスタイルが見えてくる。

 一般の人々が有志で映画を上映する“自主上映会”が、全国各地で盛り上がりをみせている。公共施設のホールなどで行われる上映会には多くの観客が集まり、上映終了後は監督や主催者と観客が熱いトークを繰り広げる。そんな自主上映会ブームの背景からは、ソーシャルメディア時代に求められる、映画上映の新しいスタイルが見えてくる。

『ミツバチの羽音と地球の回転』の鎌仲ひとみ監督

 自主上映作品として今最も注目を集めているのは、鎌仲ひとみ監督によるドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と世界の回転』だろう。原子力発電所建設計画に揺れる瀬戸内海の祝島と、エネルギーシフトを実現しながら経済成長を遂げるスウェーデンの姿をとらえたこの映画は、私たちにエネルギーの在り方についてや、これからの生き方について考えさせる。 

 9月、都内で行われた自主上映会&監督トークイベントには平日にも関わらず120人を超える観客が集まった。2010年の公開当時、マスコミにはほとんど取上げられなかったが、インターネットを中心としたクチコミで観客数を増やし、3月11日の震災後にようやく大手新聞各社に取上げられた。「小さな掲載でしたが、反応はすごく大きかった。若い人しか観に来なかったのが、紙媒体の情報のみを受け取る世代の人たちも観てくれるようになった」(鎌仲監督)。現在も週末には全国各地3~6カ所で上映が行われ、2010年6月からの自主上映回数は320回を超える。

 「タイトルの“ミツバチの羽音”というのは、クチコミの意味があるんです。ミツバチの羽音の出すぶんぶんという音はラジオの周波数に似ています。マスコミを超えて、私たちが情報を発信し、共有し、共鳴を起こしていく。それが民主主義の社会に必要なこと。正確な情報さえ手に入れることが出来れば、私たちは正しい選択ができる。だいぶ情報は出てきましたが、届いていないひとも多い。これからは情報格差で分断されているところに橋をかけ、溝を埋めて行くという仕事が大事だと思う」(鎌仲監督)。

誰もが情報発信に留まらず
直接情報を届ける時代

 かつてはメディアが独占していた「情報を届ける仕事」を、現在では一般の人々が担うようになってきた。ブログやYou tubeなどの登場で、誰もが情報を発信することが可能となり、文学や音楽をはじめあらゆる領域でプロとアマチュアの垣根が低くなって久しい。さらにmixiなどのSNS、twitter、Facebookなどのソーシャルメディアを通じて、同じ趣味や興味を持つ人々がコミュニティを形成し、瞬時に情報を共有することができるようにもなった。こうしたツールを活用することで、一般の人々が情報発信に留まらず、自主上映会のようなかたちで直接情報を届けることも容易になってきた。

自主上映会を開催する最大のネックは金銭的リスクにある。主催者側は、上映ライセンス料、会場費のほかに、チラシなどを制作する宣伝費を負担する。集客数によって収益が大きく左右されるが、ソーシャルメディアを利用すれば、宣伝費を抑えられるうえに集客も確保しやすい。例え収益は出なかったとしても、上映会を成功に導く達成感や、上映会をきっかけに新たなネットワークを築けるなど、主催者側の満足度は大きいようだ。

映画の作り手と観客が
リアルな場で繋がる魅力

 また、観客側にとっての大きな魅力は、ほとんどの自主上映会で監督や関係者と直接対話できる機会が設けられていることだ。「ひととひとが繋がる場を作りたかったので、始めから自主上映のスタイルにこだわった」と語るのは、遺伝子研究で知られる村上和雄博士のドキュメント『SWITCH…』を手がけた鈴木七沖監督だ。

 「この15年くらいでコミュニケーションの仕方が大きく変わってきた。バーチャルなコミュニケーションの力がどんどん大きくなると、今度は振り子のように全く反対のアナログのコミュニケーションの力が大きく働くんじゃないかと思う。昔の移動紙芝居のような、リアルな場が復活するのではないか。言葉を音のバイブレーションとして、耳で直接受け取る。そういうのはインターネットでは体感できないですからね」(鈴木監督)。

 サンマーク出版の取締役兼TB編集部編集長が本業の鈴木監督は、「遺伝子のスイッチをオンにすれば人間の可能性は無限大になる」という村上博士の考えをリアルな場でシェアしたいと思い、本ではなく映像という表現方法を選択。初めての監督作品となる『SWITCH…』は、今年4月から上映会がスタートし、すでに全国各地で80回以上の上映が決定している。

今の時代に求められる
新しい映画上映スタイルとは?

 もともと映画館は、同じ時空間で同じ体験を共有するリアルな場として機能しているが、一方的に情報を受け取る場としての側面が大きい。個人で情報を受け取る体験は、自宅でのDVD鑑賞体験とさほど変わらない。一方の自主上映会では、映像の作り手である監督や、情報発信者である主催者との縦のつながり、また受け手である観客同士の横の繋がりがよりはっきりと感じられる。すでにDVD発売されている映画の上映会でも観客が集まる理由に、こうしたつながりを求める心理が働いていると言えるのではないだろうか。

 誰もが伝えたい情報を発信し、情報を共有する場も作り出す。また、受け手側も情報を発信したひとや受けて同士で繋がっていく。このようなソーシャルメディア時代にフィットして支持される自主上映会のスタイルが、通常の映画上映の未来にも変化をもたらすことになるかもしれない。 

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