スマートフォンの人気は衰えを知らない。昨年後半は、「iPad mini」や「Nexus 7」など、7インチ台のタブレット端末も注目を集めた

あなたは、2012年のデジタル関連のヒット商品というと何を思い浮かべるだろうか? 家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」のデータを交えながら、この1年間を簡単に振り返ろう。

●国内のスマートデバイス市場はAndroidとiPhone/iPadの対決へ

昨年、最も注目を集めた「メーカー」はアップルだろう。3月にRetinaディスプレイを搭載した「新しいiPad(第3世代iPad)」を発売。9月には、デザインを一新して新たに高速通信規格「LTE」に対応した「iPhone 5」と、2年ぶりのフルモデルチェンジとなる新しい「iPod touch」「iPod nano」を発売した。さらに10月には、iPadとiPhoneの間を埋める7.9インチの小型タブレット「iPad mini」を世に送り出した。持ち運びに便利な大きさと、16GBモデルで2万8800円からという手頃な価格が支持されて、Wi-Fiモデルの売れ行きは好調だ。

注目の「ジャンル」は、やはりスマートフォンだ。iPhoneだけではなく、複数のメーカーが手がけるAndroidスマートフォンも売れた。年初から夏までは、ドコモの「ARROWS X LTE F-05D」や「Xperia acro HD SO-03D」、auの「Xperia acro HD IS12S」、夏から秋にかけては「GALAXY S III SC-06D」がヒット。最近は、「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」や「Xperia AX SO-01E」などが人気を集めている。

販売台数で、携帯電話全体のおよそ7割を占めるスマートフォン。OS別シェアを集計すると、10月、11月は、iPhoneが採用する「iOS」が「Android」を上回ったが、12月は逆転。1月1日から12月31日までの1年間の累計では、「Android」が「iOS」に35.8ポイントもの差をつけた。ただし、iPhone自体の人気やエコシステムに揺るぎはなく、最新モデルの「iPhone 5」も、2012年秋~冬に発売された端末のなかではケタ違いの売れ行きだ。

iPhoneとiPadなど、同じiOS搭載デバイスなら、ほとんど同じように使える安心感は、見方を変えると「サイズ以外はほとんど違いがなく、新鮮味がない」というマイナスポイントになってしまう。対してAndroid搭載スマートフォンは、機種ごとにデザインや形状に違いがあり、カラーバリエーションもおおむね3~4色と豊富だ。カラーによって質感を変えたり、人気ブランドや人気作品とコラボレーションしたりと、幅広いニーズに応えるために従来型携帯電話と同じ手法も一部採り入れている。また、従来型携帯電話で定番だった防水・防塵、ワンセグ、おサイフケータイはほぼ標準仕様になり、頻繁なOSアップデートや、最新技術、メーカー独自の技術の導入によって、わずか2年ほどの間にスペックや機能は大きく進化した。AndroidのOSとしての自由度や、端末のおもしろさを評価する熱心なAndroidファンも少なくない。

「一家に1台」から、なかなか「一人1台」のレベルまで普及しなかったパソコンに代わって、一人に1台で常に携帯するパーソナルデバイスとして、さまざまなデジタル機器と連携するホームネットワークの中心的役割を担うようになったスマートフォン。2013年は、ソフト、ハードの両面で、どのような進化をみせてくれるのかが楽しみだ。その結果によっては、「Android」がおよそ7割、「iOS」が残り3割を占めるスマートフォンのOSの勢力図に変化が起こるかもしれない。

●タブレット端末がデスクトップPCの販売台数を抜く

2012年後半は、対応する電子書籍ストアのサービス開始とともに発売された「Kindle」や「kobo」などの電子書籍専用端末や、持ち運びに便利で電子書籍の閲覧にも適した7インチ台のタブレット端末にも注目が集まった。タブレット端末のサイズ帯別販売台数構成比を集計すると、10月以降、これまで多数派を占めていた「8インチ以上」の構成比が縮小し、代わりに「5インチ以上8インチ未満」が急拡大している。「Google初のタブレット」という位置づけのASUS「Nexus 7」とアップル「iPad mini」が売れているためだ。ただし、他の7インチタブレットの売れ行きは鈍く、7~7.9インチというサイズが広く受け入れられたと判断するのは早計だろう。

9.7インチのRetinaディスプレイ搭載モデルを含めたiPadシリーズと「Nexus 7」にけん引されたとはいえ、パソコンの一形態として、タブレット端末の存在感は増している。パソコン全体(ノートPC+デスクトップPC+タブレット端末)の2012年の年間販売台数に占めるタブレット端末の構成比は、ノートPC(66.8%)の次に多い17.8%に達した。10年以上前、ノートPCがまだ高価だった頃には主役だったデスクトップPCは、タブレット端末より2.4ポイント低い15.4%にとどまる。

月次集計では、7月以降、タブレット端末の販売台数はデスクトップPCを上回り、パソコン全体に占める構成比は、11月には30.5%と3割を超えた。12月も32.0%と高い水準をキープ。一度設置すると自由に動かせないデスクトップPCは、エクセルやパワーポイントなどのビジネス業務やクリエイティブ作業、オンラインPCゲーム向けの存在になりつつある。インターネットやメールを利用するだけなら、起動が速く、自宅に無線LAN環境さえあれば、どこでもインターネットができるタブレット端末のほうが明らかに便利だ。

2012年の最大の変化は、液晶一体型のオールインワンタイプが主流になり、自分でパーツを組み立てる自作PCが下火になった数年前に兆していた「デスクトップPCの衰退」が決定的になったことかもしれない。新OS「Windows 8」のインターフェースの大幅な変更は、こうしたトレンドの変化を先取りしたものだといえる。

今のところ、タブレット端末よりはるかに販売台数の多いノートPCだが、一部のライトユーザーは、次の買い替え時にノートPCからタブレット端末に乗り換えるだろう。インターネットにつながるさまざまなデバイスのうち、タッチパネル操作に対応するスマートデバイス、すなわちスマートフォンやタブレット端末が主役に躍り出た年――。2012年は、10年後、20年後に振り返ったとき、デジタルライフの潮目が変わった年といわれることだろう。(BCN・嵯峨野 芙美)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。

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