会見より。左から、林隆三、奥菜恵、荻野目慶子、浅野温子、高岡早紀、加賀まりこ 会見より。左から、林隆三、奥菜恵、荻野目慶子、浅野温子、高岡早紀、加賀まりこ

向田邦子の傑作『阿修羅のごとく』が9年ぶりに舞台化。1月11日、東京・ル・テアトル銀座 by PARCOにて開幕した。初日直前にはマスコミ向けの公開舞台稽古、キャスト6名による会見も実施。長女・綱子役の浅野温子、次女・巻子役の荻野目慶子、三女・滝子役の高岡早紀、四女・咲子役の奥菜恵、父・恒太郎役の林隆三、母・ふじ役の加賀まりこが登壇した。

『阿修羅のごとく』チケット情報

70歳を超える堅物の父に、愛人と子供がいると知った竹沢家の四姉妹。このことは母の耳には入れないようにしようと約束する四姉妹だが、そんな彼女たちの心配をよそに、母は泰然と日常を過ごしているように見えた。そしてこの事件を機に、四姉妹それぞれが抱える問題をも露呈していくこととなり……。

“阿修羅”とは怒りや争いの象徴として知られる神であり、日常争いを好み、偽って他人の悪口を言うこともあるという。そしてこの舞台を観ると、まさに女という生き物は“阿修羅”なのだと思い知らされる。登場する女性たちは皆、愛のためには嘘や争いも厭わず、強く、したたかに自らの人生と対峙する。そしてそんな女のさまを時に辛辣に、時に愛をもって描き出す、作家・向田邦子の筆力の高さ。後半綱子が発する「みんな一つや二つ後ろめたいとこ、持ってるんじゃないの」という台詞が、チリチリとした痛みとともに胸の奥へと突き刺さる。

しっかり者の長女に見えて、不倫関係から抜け出せずにいる綱子。夫の不倫を疑い、ノイローゼ気味の巻子。恋愛に対して極度の奥手で、未だ独身の滝子。何をやってもダメな末っ子で、ボクサーの卵と同棲中の咲子。四者四様の性格、恋愛気質を持った四姉妹を、浅野を始めとする4人の実力派女優たちが熱演する。それぞれのキャラクターを立たせつつ、4人そろったときの空気感、かけ合いは、まさに家族そのものだ。加賀演じる母も加え、数々の修羅場を踏んできた“阿修羅のごとき”5人の女たちだが、不思議とラストに漂うのはある種の清々しさ。これこそ向田作品の魅力であり、女という生き物の面白さなのかもしれない。

会見ではまず林と加賀から、先日結婚を発表したばかりの荻野目へ花束の贈呈が行われた。劇中では夫の不倫に悩む主婦の役だが、実生活についてはのろけまくりの荻野目。その様子に共演者からは、次々とツッコミが入る。さらに浅野が「幸せな人を妬み、嫉み、阿修羅よ!」と言い放つと、全員爆笑。息もぴったりなやり取りは、家族さながらのようだった。

東京公演は、2013年1月29日(火)までル・テアトル銀座 by PARCOにて。その後、大阪公演は1月31日(木)から2月3日(日)まで森ノ宮ピロティーホルにて、愛知公演は2月9日(土)、10日(日)まで名鉄ホールにて。チケットは発売中。

取材・文:野上瑠美子