■アウトローのイメージが強かった20代

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水谷豊は、大学を目指していた時期に一度役者を辞めているが、すぐに芸能界に戻ってくる。そして、ゲストとして出演したのが、刑事ドラマの代名詞『太陽にほえろ!(1972年~86年、日本テレビ系)』だった。マカロニ刑事(萩原健一)時代の第1話と第30話、ジーパン刑事(松田優作)時代の54話と109話、計4回の出演を果たしている。のちに刑事役として活躍する前に、まずは『太陽にほえろ!』という国民的な刑事ドラマで犯人役を経験していたわけだ。

70年代半ばくらいまでの水谷豊は、やはりアウトローのイメージが強く、不良やチンピラのような役が多かった。ただ、そんな荒っぽい役であっても、水谷豊はそれを魅力的に演じていた。萩原健一と共演した『傷だらけの天使』はその代表で、当時の若者は彼らのスタイルにかなり影響されたものだった。このドラマでの水谷豊は探偵事務所の調査員だったが、世の中の片隅で這いつくばって生きていく若者の怒りと挫折を全身で表現していた。学歴も金もなく、孤独に死んでいく様は、ある意味『相棒』の杉下右京とは対極に位置する役だったかもしれない。

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1976年から断続的にNHKで放送された『男たちの旅路』でも、水谷豊は当初チャラチャラとした若者の象徴のような役だった。警備会社を舞台にしたドラマで、主演は鶴田浩二。1976年というのは、日本の総人口の中で戦後生まれの割合が初めて半数を超えた年で、その年に山田太一が戦争を知る世代と知らない世代とのぶつかり合いを描いた作品だった。

時代が変わっても、変わってはいけないものがあると正論を言い続ける鶴田浩二に対して、若い水谷豊が反発しながらも、その信念を貫く生き方に信頼を寄せていく姿が印象的だった。

決して情に流されることも、組織や政治の力に迎合することもなく、間違っていることは間違っていると言い続ける杉下右京の姿は、この『男たちの旅路』の鶴田浩二を彷彿とさせる。考えてみれば、あの頃の鶴田浩二の年齢を、水谷豊はすでに超えているんだな。そうと思うとなんだか感慨深い。