■『刑事貴族』のキャスト入れ替えが『相棒』への布石

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80年代以降の水谷豊は、刑事、探偵、事件を追う記者などの役が多くなり、『浅見光彦ミステリー』『地方記者・立花陽介』『探偵左文字進』など、シリーズ化する作品も多くなった。そんな中、刑事モノでは1989年に放送された『ハロー!グッバイ』で、初めてキャリアの刑事役を演じることになる。この時の設定が、ロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)に2年間赴任していたというものだった。ちなみに『相棒』の杉下右京は3年間の赴任。

『ハロー!グッバイ』は日テレ系金曜8時からの放送だったが、ここは『太陽にほえろ!』を放送していた枠で、1990年4月からは舘ひろし主演の『刑事貴族』が放送されていた。ところが、10月からテレ朝で石原プロ制作の『代表取締役刑事』という作品が始まることになり、舘ひろしはそちらに移ってしまった。そこで、『刑事貴族』の第2、第3シリーズは、水谷豊が主演することになったのだ。この時に共演したのが、のちに杉下右京の元妻・たまきを演じることになる高樹沙耶(現・益戸育江)であり、亀山薫を演じることになる寺脇康文だった。

寺脇康文はもともと水谷豊のファンであることを公言していたが、『刑事貴族』での共演がなかったら、初代の相棒に起用されていたかどうかは分からない。そういう意味では、『刑事貴族』のキャスト変更は、現在の『相棒』につながる大きなキッカケだったかもしれない。ちなみに、このドラマでの水谷豊の口癖は「あ~、お恥ずかしったらありゃしない」で、寺脇康文の口癖は「唖然くらっちゃうな」だった。

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そして、1994年から99年にかけて、テレ朝系の土曜ワイド劇場で5回に渡って放送された水谷豊主演の『探偵事務所』が、実質的に『相棒』へつながる作品となる。原作である鳥羽亮の「探偵事務所シリーズ」をすべて映像化してしまい、新たなシリーズを企画することになって生まれたのが、『相棒・警視庁ふたりだけの特命係』だ。これがいわゆるPre seasonの『相棒』で、この時に杉下右京は誕生した。

土曜ワイド劇場枠では3回放送され、視聴率は17.7%、22.0%、17.4%。これを受けて、2002年10月から水曜9時枠での連ドラがスタートし、現在に至っている。

以前、水谷豊はインタビューで「30代、40代でしてきたことは、すべて50代への準備だった」と話していたが、杉下右京というキャラクターの中には、確かにこれまでの水谷豊の歴史がある。その40年を超えるキャリアがあるからこそ、たとえ相棒が変わったとしても杉下右京の魅力は失われないのだ。

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。