『ライフ・オブ・パイ』来日会見に登壇したアン・リー監督

最新作『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』を引っさげ来日した、アカデミー賞監督のアン・リーが17日に都内で記者会見を行った。先日発表された第70回ゴールデン・グローブ賞で作曲賞受賞(マイケル・ダナ)、第85回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む11部門にノミネートされている本作。「もちろん名誉なことですが、今回はプロジェクトそのものがとても特別なもの。幸福感に浸りながら、映画を完成させただけで満足しています」と作品への深い思い入れをしめした。

本作はブッカー賞受賞の世界的ベストセラーを原作に、少年とどう猛なトラが1隻の救命ボートで227日間にわたって漂流する姿を、壮大なスケールと神秘的な3D映像で描く。最新技術を駆使した、これまでとは一線を画す作風だが「人間の内面を描いたドラマという点では、過去の作品と同じ」だと説明し、主人公・パイについて「パイ(π)は割り切れない数字であり、割り切れない人間性を表している。つまり、私たちすべてを象徴する存在なのです」と語った。

主演を務めるスラージ・シャルマは、約3000人のオーディションから見出された新星で、これまで演技の経験はゼロ。それでも「初めて会った瞬間『彼こそパイだ』と直感しました。深い眼差しと魂。彼はパイのすべてを持っているし、撮影が始まるとまるで悟りを開いたように、役に入り込んでいた。演技に向かうピュアな姿勢は、私たちを映画作りの初心に帰らせてくれた」(リー監督)。唯一の問題点は「漂流する役柄なのに、まったく泳げなかったこと」だそうで、「撮影が始まる3か月前から特訓してもらった」と明かした。

「サバイバルを通したイノセンスの喪失。このテーマを感情的に訴えかけるには映像以上に、俳優の力が必要だった。シャルマはもちろん、成長したパイを演じるイルファン・カーンも素晴らしい演技で、作品の精神を表現してくれた」とリー監督。それだけに「今回アカデミー賞で11部門ノミネートされたのは光栄だが、本来は彼らも候補に挙がり13部門であるべきだった」と歯がゆい思いも垣間見せた。

同賞で最多12部門にノミネートされたスティーブン・スピルバーグ監督の『リンカーン』に対しコメントを求められると「私はリンカーンなど恐れません」と笑いを誘い、「先ほども申し上げた通り、この作品が完成したことが素晴らしい出来事。ですから、受賞はあくまでボーナス。逆にもし受賞してしまったら、今からスピーチが心配です(笑)。『リンカーン』にもグッドラックと申し上げたい」とライバルにエールをおくった。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
1月25日(金) TOHOシネマズ 日劇ほか全国公開
※3D/2D同時上映