(左から)橋爪功、妻夫木聡

日本映画界を代表する巨匠・山田洋次の最新作『東京家族』で“2012年という今の時代”の家族、そして父子を演じた橋爪功と妻夫木聡が、上映時間の5分の1しか流れないという久石譲の音楽にまつわるエピソードや、山田監督が本作に込めた想いについて言及した。

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本作は、小津安二郎監督の『東京物語』(1953年)をモチーフに、現代の東京に生きる“ある家族”の姿を描く感動ドラマ。瀬戸内海の小島に暮らす平山周吉(橋爪)と妻とみこ(吉行和子)が、子どもたちに会うために東京へやって来る。しかし、日々忙しい生活を送る子どもたちはつれない態度を取ってしまう、というストーリーだ。口うるさい父親に反抗してしまう次男・昌次を演じた妻夫木は、「山田監督は『東京物語』(1953年)へどこまでオマージュを捧げるか最初は勝手に想像していましたが、現場に入ってみると、今の時代の新しい家族をとらえようとされていました。それは、ひしひしと伝わりましたね」と撮影時を回想する。

主演の橋爪も、「あのアパートのシーンでは、本当にウルウルっときたね(笑)」と心底感動したそうだが、家族のエピソードを優しく抒情豊かな旋律で彩る久石譲の楽曲も物語をエモーショナルに煽る。実は橋爪が直接本人に聞いた逸話があって、これが面白い! 「実際には20分強しか音楽を使ってないそうです。2時間半で、30分間足らず。もうびっくりしちゃって(笑)」という説明に、「考えてみると、どこにどういう音楽が流れていたかはっきりと言えないですね(笑)」と妻夫木も驚く。「だから無音状態が長い(笑)。でも、長くは感じないわけですよ」(橋爪)。映像と音楽が見事に調和している好例と言えそうだ。

俳優は出演作を冷静に観られないというが、「これが、どういうわけか落ち着いて観られました(笑)。ああ、観てよかった、そう思える映画になりました」(橋爪)、「家族のすれ違いや、心と心の重なり合いを丁寧に描いた映画なので、それぞれの人生で思うところはあると思います」(妻夫木)と自信を持って送り出す。妻夫木の言葉を借りれば心温まる感動作とよく言うけれど、それはまさしく本作のような映画のことを指すだろう。誰よりも近くて大切な存在なのに、時々煩わしくて遠くに感じてしまう家族の物語に涙してほしい。

『東京家族』

取材・文・写真:鴇田 崇