『プライムたちの夜』稽古場より photo by bozzo 『プライムたちの夜』稽古場より photo by bozzo

2014年、米・ロサンゼルスで初演されるやいなや、大きな話題を呼び、その後映画化もされた『プライムたちの夜』の日本版舞台が、11月7日から新国立劇場で上演される。現代の優れた欧米戯曲を日本で初演しようという同劇場の企画の一環で、アメリカの新進作家ジョーダン・ハリソンによるもの。
娘夫婦(香寿たつき、相島一之)と暮らすマージョリー(浅丘ルリ子)は、85歳を迎え記憶にも霞がかかってきた。そんな彼女が30代の男性(佐川和正)と昔話をしている。彼女の夫にそっくりのその男性は、実はアンドロイドだった――という物語だ。

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10月某日、その稽古場を取材した。浅丘、香寿、相島、佐川の4人が初日をめざし、シーンを丁寧に構築している。演出を担当するのは、新国立劇場の芸術監督でもある宮田慶子。宮田は香寿と相島が演じる夫婦の会話に、細かい演出をつけていく。「この夫を語るとき、きっと“思慮深い”という形容詞が入ると思うんだよね」という具合に、キャラクター一人ひとりの性格や背景を様々な表現で伝える宮田。「なぜその言葉を使ったのかを意識して」「初めてのように、新鮮に言おう」とふたりに伝えるたび、妻の苛立ちや焦り、夫の寛容がより際立ってみえてくる。
浅丘の演じるマージョリーは、記憶はところどころ薄れつつあるものの、言動はしっかりしている。時に頑なだったり皮肉っぽかったりする彼女のセリフに、稽古場はたびたび笑いに包まれた。

「最初は、全容をつかむのにずいぶん苦労しました。でもこの物語は、じつは何千年前から同じように悩んでいた家族の関係、母娘の関係を描いている作品なんです」と宮田が話す通り、2062年という近未来の設定が信じられないほど、現代と変わらない家族の姿がそこにはある。
人間のように精巧なアンドロイド――けれども、浅丘と佐川の会話には、その端々にちょっとした違和感が混じる。「ほぼ人間だけど、どこかちょっと違うんですよね。人間と人工知能の差異を見つけることが、人間の尊厳を再確認することになるのかもしれない」と宮田。
稽古場では佐川があるセリフのニュアンスをつかむのに何度も繰り返し、さまざまな言い方を試す場面も。ひとりで繰り返そうとする佐川に、手を差し伸べるかのように直前のセリフを発して流れをつくる浅丘。それぞれが真摯に作品に立ち向かいながらも、稽古場には穏やかな空気が流れていた。斬新な切り口で普遍的な問題を描き出すべく、稽古を重ねる宮田と4人のキャスト。この作品が新たな古典になり得る予感がした。

公演は11月7日(火)から26日(日)まで東京・新国立劇場 小劇場にて上演後、兵庫を巡演。チケット発売中。

取材・文:釣木文恵