ドゥニ・ヴィルヌーブ監督

 SF映画の名作『ブレードランナー』(82)の、35年ぶりの続編となる『ブレードランナー2049』が、いよいよ10月27日から公開される。前作のリドリー・スコットから監督の座を引き継いだのは、『メッセージ』(16)でアカデミー賞の監督賞候補となった鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴ。来日した彼に、前作への思いや本作製作の裏側を聞いた。

-有名な『ブレードランナー』の続編を、ご自分が監督することになった時の心境は?

 いろいろと複雑な思いがしました。最初に脚本を渡された時、私にこの映画を託してくれることにとても驚きながら、同時に感動を覚えました。そして、実際に脚本を読んでみると、圧倒されながら、興奮しました。そこには、私にとって分かりやすい、親しみのあるテーマが含まれていたからです。ですから、自分が監督にオファーされたことに納得がいきました(笑)。
 ところが、そうは思いながらも、今度は「ではどう撮ればいいんだ。本当に私が続編を作っていいのか」と不安にかられ、パニックに陥りました。そこで「名作の続編を作ることは、とてもまずいアイデアだ。成功するチャンスはとても少ないぞ」と自分に言い聞かせました。
 でも、あまりにも脚本が良かったことと、「あの名作の続編に自分が関わることができるんだ」という思いに負けて引き受けることにしました。私は『ブレードランナー』が大好きでしたし、映画監督になりたいと思わせてくれた作品でした。なので「引き受けたからには、前作に敬意を払う作品にするための努力は惜しまない」と決意しました。

-この映画は、前作へのラブレターのようにも見えましたが、そこに自分らしさを込めた部分はありましたか。

 私も、この映画については“ラブレター”という言葉をよく使います。ですから、前作の世界観からあまり離れないように撮ることを心掛けましたが、景色を撮る時も、人物を撮る時も、そこには私の感性が出ていると思います。それが他の監督には無い強みでもあれば弱みでもあると思います。

-前作を踏襲しながら、新たな物語を作る上で苦労した点はありましたか。

 苦労はたくさんありましたが、デッカードを再登場させることがその最たるものでした。何しろ、ハリソン・フォードが気持ち良く演じてくれることが一番大事なことでしたから、強い責任を感じました。

-この映画は、前作はもちろんですが、以前ご自身が監督された『複製された男』(13)と色調がとても似ている感じがしましたが…。

 実は『複製された男』は『ブレードランナー』にとても影響を受けた映画でした。都市の風景というか、都市が抱えるパラノイアや閉塞感が一つのキャラクターになっているところや、公害がストレスになっている社会など…。これは初めてお話しますが、『複製された男』で描いたさまざまな解釈を、より広げて今回の映画に生かしました。でも、それは意識的にしたのではなく、自分自身の欲求から自然に生まれたものだったと思います。

-主役のブレードランナー“K”を演じたライアン・ゴズリングはいかがでしたか。

 ライアンは、微妙な動きや表情の変化で感情を表現することができる俳優です。カメラの前に立つだけで何かを伝えることができます。ベニチオ・デル・トロとも通じるところがありますね。基本的には、内面から表現する演技なのですが、それをとても強く伝えることができるのです。今回はカリスマ性を必要とする役でしたので、彼にはぴったりでした。
 また、彼は単なる俳優ではなくて、ストーリーテラーとしても有能です。今回は私の仕事も手伝ってくれました。どういうせりふを言えば観客に伝わるかを、ライアンと一緒に何日もかけて考えました。常に一緒に責任を背負ってくれている感じがしてとても心強かったです。

-前作にも本作にも、未来世界のイメージの中にさまざまな日本のデザインが登場しますが、その理由は? 『メッセージ』には“ばかうけ”も登場しましたね(笑)。 

 きっと日本が未来そのものなんですね(笑)。今回はちょうど台風が来ている時に日本に来ましたが、写真を撮って「これがまさに『ブレードランナー』の世界だよ」と(撮影監督の)ロジャー・ディーキンスに送りました(笑)。
 日本の文化からはとてもインスピレーションを受けます。日本のデザインは純粋で、スタイリッシュで、洗練されていて、とても感心させられます。コンセプトアーティストには「日本人らしくデザインを考えて」と言います。線の使い方などは日本人が最もうまいと思います。いろいろな文化が融合しているところも美しいと思います。
 リドリー・スコットは、前作を作った1980年代に、将来的には日本や中国といったアジアの国の文化が一番上にくると予測していたのかもしれません。そういう意味では、今回の私の映画でもアジアを強く意識しました。これは今、私が日本にいるからお世辞で言っている訳ではありませんよ(笑)。日本が影響を与えているのは事実なのですから。

(取材・文・写真/田中雄二)