『コンチェルト・ バロッコ』より  撮影:鹿摩隆司 写真提供:新国立劇場 『コンチェルト・ バロッコ』より  撮影:鹿摩隆司 写真提供:新国立劇場

新国立劇場バレエ「ダイナミック ダンス!」が1月24日、東京・新国立劇場 中劇場で幕を開ける。

新国立劇場バレエ「ダイナミック ダンス!」チケット情報

未曾有の東日本大震災のため中止を余儀なくされた「幻のトリプル・ビル」が満を持して復活。この公演のリハーサル中に震災が起こり、いわば私たちと共に災害を体験した作品といえよう。被災者への祈りと明日への力が込められ、一種独特の輝きを持った3つの舞台は、バランシン、ビントレー、サープといった、舞踊界最高の振付家たちの作品。初日キャストによるゲネプロでは、やや緊張感に満ちたダンサーたちと、鼻歌混じりで音楽を追いながら、舞台の完成を嬉しそうに見守っているデヴィッド・ビントレー芸術監督の姿があった。

ジョージ・バランシンの『コンチェルト・ バロッコ』は、3楽章からなるJ・Sバッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調」に振付けられているが、主旋律をふたりの女性ソリストと女性の群舞が美麗に踊り分け、ヴァイオリン、オーケストラと呼応しあって謳い上げていた。第2楽章では山本隆之のリフトに掲げられた小野絢子が、そのサポートと美しく溶け合い、終楽章ではポワントワークを駆使して、刻々と変化を遂げるフォーメーションに目を奪われる。

『テイク・ファイヴ』は、ジャズ音楽にも精通するビントレーの真骨頂を発揮した香りを放つ作品。デイヴ・ブルーベックのきめ細かなフレーズに、ポール・デスモンドの抒情性溢れるサックスがしなやかに絡み合った音楽空間が、ジャズ・カルテットの生演奏によって再現された。ボサ・ノヴァ・USAでは、今やビントレー作品には欠かせない八幡顕光が、期待にたがわず超絶的な跳躍や回転に満ちたソロを魅せる。ブルー・ロンド・ア・ラ・タークでは、ビントレーの細かく雄弁な振付けが変拍子にかみ合って大円団を迎える。厚地康雄は彼が古典作品のみならず、あらゆるジャンルのダンスに秀でていることを、クライマックスに向かう一瞬のソロで印象付けた。

新国立劇場の初演となる『イン・ジ・アッパー・ルーム』は、トワイラ・サープの躍動感みなぎる振付と、フィリップ・グラスの音楽が融合した傑作。ノーマ・カマリのデザインによる、黒のストライプと鮮やかな赤をあしらったあらゆる形態のコスチュームが全編を彩り、トウシューズやスニーカーで踊られる異なる舞踊スタイルが、息もつかせず繰り広げられ、舞台を覆う霧に赤が映えて、視る音楽が楽しめる。

ダンサーたちが体力の限界を超える勢いで極みに向かう舞台は、震災の日から待ち続けた観客への特別な公演となるだろう。公演は1月27日(日)まで。チケット発売中。

取材・文:高橋恭子(舞踊ジャーナリスト)