鈴木砂羽

不器用でも懸命に生きた母と息子の姿を描く、『しあわせカモン』に主演した鈴木砂羽がインタビューに応じた。一度は公開が頓挫したが、「お蔵出し映画祭」で日の目を見たこと、情熱ゆえに追加撮影を熱望したエピソード、そして全身全霊で扶美江役を演じた想いとは。

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故郷の岩手県を中心に活動するシンガーソングライター・松本哲也氏の自叙伝『空白』をベースに、捨て鉢な人生を送る母・扶美江と、その因果で児童養護施設で暮らすことになった息子・哲也(石垣佑磨)の壮絶な親子ドラマを描くヒューマン・ドラマ。その脚本に触れた際、「ビビッときた」という鈴木は、「扶美江さんのキャラクターが鮮明に動いていて、それを形にしたい欲求が強くなりました」とある種の衝動を覚えたという。「薬物中毒でどうしようもないけれど、一途で強い愛情だけはある、その母親を自分が演じれば、上手いこといくで! という自信だけはありました(笑)」と出演を熱望した理由を説明する。

すでに報道にあるように、本作は公開までの経緯が面白い。一度は実現が頓挫したものの、2011年開催の第1回「お蔵出し映画祭」でグランプリに輝いたことで日の目を見た。「低予算の映画ではよくあることみたいですが、本当にほっとしました。あきらめないでよかったって」と受賞時の心境を明かす。鈴木にとって『しあわせカモン』は単なる出演作のひとつではなく、予算の都合で撮影がなくなったシーンを周りのスタッフに直談判で追加撮影にこぎ着けるほど情熱を傾けた作品だった。「普通はそういうことは言わないけれど、この作品にはどうしても必要なシーンでした。主演の責任もあった。中途半端に終われなかったわけです」。この顛末は鈴木の自著『女優激場』に詳しく書かれているので、詳細な説明は譲りたい。

その結果には満足していて、「女優の立場を超えた対応をしましたが、後悔はしていないです(笑)」と晴れやかな気持ちで作品をおくり出す鈴木。「そこまでしたことは初めてで、そう思ったことも初めてです。女優には自分が演じないといけないというアドレナリンが出る瞬間があって、この作品は丸ごと一本そういう物語でした。完全にイメージが沸いて、挑戦して、本当に楽しかった。観ていただく方々に、その想いが伝わればなあと思います」。

『しあわせカモン』

取材・文・写真:鴇田 崇

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