ビックカメラ天神1号館・天神2号館のフロア構成

福岡市の家電量販市場として最も規模が大きいのは博多駅前で、次いで天神地区、そして点在する郊外店舗と続く。博多駅前と天神地区は、観光客や九州全域からの出張客、地元の学生などを新規顧客として獲得することに力を注ぐ都市型店舗。一方、郊外の店舗群は生活密着型で、地元住民をリピーターとして確保する。それぞれの店舗の売り場づくりを探った。(取材・文/佐相彰彦)

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<店舗>

●ビックカメラは2店舗で総合店を演出 ベスト電器の子会社化でヤマダ電機に信頼感

九州最大の繁華街・天神の駅前には、ベスト電器の福岡本店と博多大丸店、ビックカメラの天神1号館と2号館が店を構える。ベスト電器は福岡市を本拠地とする、九州で最も知名度の高い家電量販店で、高齢者を中心に支持されている。

一方、ビックカメラは、ユニークな店構えで会社員から学生まで幅広い層を集める。西鉄福岡(天神)駅のガード下にある天神1号館は、細長いレイアウトで、店舗自体を3ブロックに分けている。Aブロックがスマートフォンやタブレット端末など、Bブロックがパソコンや関連商品、Cブロックがスポーツ用品という構成だ。そして1号館から徒歩5分の場所には、白物家電専門店の天神2号館がある。2店舗で総合的な家電量販店を演出しているのだ。

ファッションショップが建ち並ぶ一角には、アップルがApple Store福岡天神を出店。客層は若者が中心だ。また、商業施設・キャナルシティ博多にはラオックスがキャナルシティ博多店を構え、中国など海外からの観光客を集めている。

新駅ビルとしてJR博多シティが開業し、九州新幹線の開通で来訪者が一気に増えた博多駅前には、ヨドバシカメラが大型店舗のマルチメディア博多を構える。地下1階から地上4階のフロア構成で、50万以上と群を抜くアイテム数を誇る。さらにテナントとしてファッションショップやレストランが入り、幅広い年齢層のお客様を吸引している。博多駅周辺には、さらにドスパラ博多店、ユニットコムのTWOTOP博多店、じゃんぱら博多店などのパソコン専門店も点在。新駅ビルの開業や九州新幹線の開通後は、これまでの来店者であるパソコン上級者に加え、ファミリーなどが来店するようになった。

郊外の店舗は、駐車場を完備した大型店がほとんど。半径10kmを商圏範囲として、地元住民をリピーターとして確保している。売り場面積6000㎡クラスの店舗が多いなかで、ヤマダ電機テックランド博多本店は約4000㎡と他店より小規模ながら、地元住民の評価が高い。1998年のオープンと他店よりも歴史が長いだけでなく、昨年、ヤマダ電機がベスト電器を子会社化したことでも信頼を得ているようだ。

●売り場

スマートハウスへの関心が向上 BTOパソコンの販売が1.5倍に

駅前と郊外では、来店者層や繁閑の曜日・時間帯が異なる。各店舗はこれらの条件に合わせてマーケティング戦略を立て、売り場をつくっている。全国で、都市型店舗を「LABI」、郊外店舗を「テックランド」という名称で展開するヤマダ電機は、その代表例だ。

テックランド博多本店は郊外店という位置づけで、地元住民を中心にファミリーをターゲットとした売り場づくりに力を入れている。五十川総寿店長は、「1998年のオープンで、近隣の競合店に比べて古くからご来店いただいているお客様が多い。そのお客様の信頼に応えるよう取り組んでいる」という。最近では、スマートハウス関連の問い合わせが多く、「どのように『エコな暮らし』が実現できるか、どのくらい光熱費が節約できるかなど、関連商品を集めてわかりやすく解説するコーナーを設置している」という。また、平日は休日に比べるとお客様が少ないので、スマートハウスの説明を聞きに来るお客様には比較的長時間をかけて対応することで、信頼を高めている。さらに、平日の夜は付近の企業に勤める会社員が来店する。「デジタル機器を目あてにいらっしゃる男性が多いので、パソコンやデジタルカメラのコーナーも充実させている」ということだ。

ドスパラ博多店では、駅前の活性化でファミリーを中心に来店が増えていることから、「多くの方々の興味を引くために、パソコンコーナーを拡充した」(木村和馬店長)という。自社ブランドのBTO(受注生産方式)パソコン「Galleria(ガレリア)」のコーナーを充実させたことで、パソコンの売上高は前年の1.5倍近くまで伸びているという。

また、ドスパラ博多店は法人のお客様も多い。もともと付近の個人事業者などがビジネスパソコンを求めて来店していたが、その評判がクチコミで広がり、やや大きな企業のお客様が増えている状況だ。そこで、「個人のお客様とは別に、しっかりと対応することが重要」との判断で法人専門の担当者を配置。専門要員によって、さらに信頼を高めている。

●品揃え

ついで買いがポイント 新商材で来店者が増加

クルマでなければ行くことができない郊外店舗の場合、お客様の来店頻度はどうしても低くなる。そこで、いかに客単価を上げるかが収益増のカギを握る。ヤマダ電機テックランド博多本店では、日用品が客単価を上げる商品になっているという。五十川店長によれば、「デジタル機器や白物家電を購入したお客様がついでに購入するだけでなく、日用品を購入するために来店するお客様も少なくない」そうだ。「ポイントを使って日用品を購入できるので、新規のお客様にはポイントカードへの加入も勧めている」。テックランド博多本店は、半径10km圏内の他社店舗に比べて売り場面積が狭く、どうしても陳列する商品の数は少なくなる。しかし、五十川店長は、「『本店』として最新のトレンド商品を陳列することを期待されているので、デジタル機器に関しては他店より新製品を充実させている」と胸を張る。お客様が求めるデジタル機器を揃えながら、日用品で客単価の向上と新規顧客の獲得を実現しているわけだ。

ドスパラ博多店では、入り口近くに自社ブランドのタブレット端末「DOSPARA TABLET(ドスパラ タブレット)」を展示している。最新のトレンドであるタブレット端末は、「お客様の興味をかき立て、確実に来店者増につながっている」と木村店長はアピールする。また、ドスパラが得意とする自作パソコンのパーツは、駅前にあるヨドバシカメラのマルチメディア博多などの家電量販店と比べて、常に充実した品揃えにするよう心がけ、さらに「どんなパーツを求めているのか、いつもお客様に聞くようにしている」という。これらの活動は、お客様とのコミュニケーションだけでなく、「『家電量販店にはなかったのでここに来た』というお客様が多くなった」と、自作パソコンファンを確実にキャッチする効果も生んでいる。

※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2013年1月21日付 vol.1465より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。