HTCの児島全克社長

いまやスマートフォンの標準仕様といえるタッチパネルやトレンドであるデュアルレンズは、いずれもHTCが世界で初めて採用した技術だ。後続のスマホメーカーの勢いに押されてシェアを落としてはいるものの“イノベーションのHTC”は依然健在。巻き返しを図るために、最先端テクノロジーを駆使した尖ったものづくりを続けている。スマホが臨界点を迎えていると評される現在にあっても「イノベーションはまだある」と語るのは、17年1月に日本法人の社長に就任した児島全克氏。次の時代を見据えたスマホの将来像を示してくれた。


取材/道越一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト

文/大蔵 大輔、写真/松嶋 優子

世界初のスマホメーカーが模索するスマホの次の進化

道越 HTCといえばAndroidスマートフォンを世界で初めて開発したメーカーとして有名です。

児島 初号機「HTC Dream」がリリースされたのが2008年なので、今から9年前になりますね。HTCは今年で20周年を迎えますが、もともとはポケットPCのOEM開発で成長した会社なんです。当時はこの分野で80%の世界シェアを占め

ていました。

道越 なるほど。小型化技術の歴史とノウハウがあったからこそ、スマートフォンを開発することができたんですね。HTCといえば“尖ったものづくり”というイメージも強いです。現在、スマホはだいぶコモディティ化したジャンルになりつつありますが、まだ尖った進化は可能なのでしょうか。

児島 HTCは設立当初からイノベーションを重視しています。それは現在でも変わりません。たしかにスマホにはもう新しい発見はないだろう、としばしば言われますが、われわれはそうは考えていません。どんな時代になろうとイノベーションは必ずあるというのがHTCの信条です。

例えば、最新機種の「HTC U11」は「エッジ・センス」という感圧センサを利用した機能を搭載しています。これは端末を握った圧力でスマホを操作することができるという機能です。

道越 インターフェース自体を刷新しようとするのが、HTCらしいですね。

児島 「エッジ・センス」は先日のアップデートでまた一段と便利になりました。ダウンロードできるすべてのアプリで、機能をグリップに割り当てられるようになったのです。例えば、「Google Map」であれば、端末をグッと握ることで表示した地図を拡大するといったことができます。

道越 端末を握るという自然な動作を生かしているのが、インターフェースとして非常にすぐれていますね

「人」が中心にいる限りスマホは生き残り続ける

道越 新しいテクノロジーに対してはどのようなスタンスですか。

児島 IoTやAI、5Gなどの普及で、スマホを取り巻く環境が変化することは間違いありませんし、周辺機器も今とは異なるものに置き換わるかもしれません。しかし「人」が中心にいる限り、ハブになるスマホがなくなることはないと思っています。キーになってくるのは「人との接し方」だと考えています。

道越 具体的にはどのようなイメージでしょうか。

児島 例えば、「U11」は今話題の音声アシスタント「Amazon Alexa」(Alexaの日本リリース後に対応予定)と「Google Assistant」の両方に対応していますが、それとは別にHTC製AI「HTC Sense Companion」も搭載しています。

これはいわゆる音声アシスタントではありません。端末内のユーザーのデータを学習し、バッテリを最適化したり、スケジュールに合わせた提案をしたり、裏方の役割を果たすAIです。

道越 ユーザーに一番近いAIというイメージですね。

児島 スマホはどんどん個人に合わせて、カスタマイズされていくことになると思います。単なる通信端末ではなく、自分だけのアシスタントという立ち位置になってくるのではないでしょうか。

道越 ちなみにSIMフリーでの販売は考えていないのですか。

児島 今まではSIMフリー、イコール格安スマホという市場だったのでHTCのハイエンドスマホは適さなかったのですが、潮目はだいぶ変わりつつあります。SIMフリーでも尖った機能を備えた高級機が受け入れられる土壌ができつつあるので、来年にでも参入を検討していく予定です。SIMフリーでもお客様が思いもしないような、HTCらしい尖った発想の端末で勝負していければと思っています。

※『BCN RETAIL REVIEW』2017年11月号から転載