松下常慶役の和田正人

 かつて山伏の姿で諸国を行脚し、井伊家にさまざまな情報をもたらしてきた松下常慶。井伊家が絶えた後、幼い虎松(寺田心・後の万千代)を養子に迎えた松下源太郎(古舘寛治)の弟であり、今では直虎(柴咲コウ)と共に、徳川家に仕える万千代(菅田将暉)を支える存在となっている。演じる和田正人が、初の大河ドラマ出演で感じたこと、常慶役に込めた思いを語った。

-初めての大河ドラマ出演が決まった時のお気持ちは?

 この作品のプロデューサーの岡本(幸江)さん、脚本家の森下(佳子)さん、音楽の菅野よう子さんは、僕の役者としての転機になった朝ドラの「ごちそうさん」(13~14)と同じチームなんです。その皆さんが再びタッグを組んだ大河に出させてもらえたということは、すごくうれしかったです。難しい役ですが、役者として新たな課題を与えられたようで、愛を感じています。

-常慶は序盤、謎の山伏といった雰囲気で登場しましたが、虎松が松下家に養子にくる頃から兄・源太郎が登場するなど、プライベートな部分が見えてきました。演じる上で、気持ちの変化などはありましたか。

 山伏の姿をしていた第38回ぐらいまでは、密書を届けたり、影で情報を伝えたりする役割だったので、喜怒哀楽を出さないように淡々と演じていました。松下家が正式に徳川に仕えるようになった第39回あたりからは、人が変わったと見られないように気を付けながら、人間味のある部分を出すようにしています。

-映画と違ってテレビドラマの場合、結末が分からないまま演じていくことになります。後半、人間味のある姿を見せていく上で、難しさを感じた部分はありますか。

 最初に、井伊と徳川をつなぐ存在という大まかな話は聞いていましたが、常慶自体がどんな紆余(うよ)曲折を経て変わっていくのかということまでは分かりませんでした。そのため、最初は淡々と演じていたのですが、途中から矢本(悠馬/中野直之)くんや田中美央(奥山六左衛門)さんが生き生きと演じているのを見たら、「ちょっと違うかな…?」という気になったというのが、正直なところです。ただ、いつか松下家にフォーカスが当たった時、これが長い前振りになって生きるんじゃないかと思って耐え忍んできました。だから、今は長い間ため込んだ貯金を散財するような気持ちになっています(笑)。

-徳川に仕えるようになった常慶は、山伏姿から衣装が変わりました。

 半年以上、あの山伏姿でしたが、数多い登場人物の中でも色合いや衣装が独特なので、気に入っていました。徳川に仕えるようになった後、どう変わるのか楽しみでしたが、山伏の時の衣装を生かしたものになっていて、徳川家臣団の中でも少し違う雰囲気があるので、面白いです。やっと腰に刀も差せるようになりましたし(笑)。

-万千代役の菅田将暉さんとは過去にも共演経験がありますが、今回、改めて共演した印象はいかがでしょう。

 菅田くんが登場する第39回、40回あたりの台本を頂いて読んでみたら、演じている姿が頭に浮かび、思わずおなかを抱えて笑ってしまいました。時代劇は初めてだそうですが、経験が無いからぶつかっていくしかないという姿勢が、まさに万千代にぴったり。現場に立った時の瞬発力にも目を見張るものがありますし、一緒にお芝居をするのはとても楽しいです。ちなみに、初めて共演した「ごちそうさん」では「源太おじさん」と呼ばれていたのですが、今回も万千代の叔父役。だから、菅田くんからは「和田さんはいつもおじさん役ですよね」と言われました(笑)。

-大河ドラマの魅力とはなんでしょうか。

 やっぱり、1年かけて作品作りに携われることは他に無い大きな魅力です。演じていると、その時は分からなかったけれど、後になって気が付くことが山のようにあるんです。自分1人で考えても見付からなかった答えが、他の人の言葉から生まれたり…。それは、他の人とのコミュニケーションの中からだったり、面白そうだからと他の人がやっていることをまねしてみたりと、いろいろなところから出てきます。

-長い時間をかけたからこそ生まれるお芝居の面白さですね。

 同じ時間を過ごすうち、そういうものがより生まれやすくなっていくし、共演している相手のことを知れば知るほど、次に演じる時はお互いに懐に飛び込みやすくなる。だから、どこか準備期間をしっかり取ってやっているような感じなんですよ。僕にとっては、松下家にフォーカスが当たるまでの30数回分がまさにその準備期間のようで、とても面白い試みをさせていただいています。

-常慶は直虎と対面する場面が多いですが、印象はいかがですか。

 特に序盤は直虎と対面する場面が多く、緊迫感のあるシーンばかりだったので、殿という印象が強いです。ただその中にも、時折はにかんだ表情を見せるなど、直虎とは違うおとわとしての素顔が見える瞬間があって、とてもいとおしく感じます。井伊谷に足を運ぶうち、常慶は絶対に“おとわ信者”になっていったはずです。

-今は直虎とも信頼関係が出来上がっているようですね。

 第29回で「徳川に城は明け渡すが、加勢はしない」という話を聞き、「それが井伊の戦い方なのでございますね」と言ったとき、常慶には直虎をリスペクトする気持ちが芽生えたと思うんです。その後、松下の養子になった万千代が徳川に仕えることになったので、今は松下と井伊が一つになって、やんちゃっ子を支えていこうという形になっています。その中でさまざまな問題に対して、相談しながら対処していくというのが、今の関係ですね。

-2人の関係も、ドラマの見どころの一つです。

 でも、たまには他の井伊谷の人たちとも絡みたいです。先日、少しだけ六左衛門やしの(貫地谷しほり)と一緒になる機会があったのですが、和気あいあいとした様子がうらやましくて(笑)。出演者同士の飲み会には毎回のように参加しているのですが、現場で顔を合わせたことの無い人が多いんです。この前、メーク室で矢本くんと会ったときも、「ここで会ったの、初めてですよね」と言われました(笑)。残り少ないですが、頑張ります。

(取材・文/井上健一)