藤原竜也 藤原竜也

劇作家・井上ひさしが生前書こうと試みた幻の作品『木の上の軍隊』が、井上の原案をもとに蓬莱竜太が戯曲を書き下ろし、井上が信頼を寄せた栗山民也の演出で今春上演される。終戦を知らず2年もの間、沖縄県・伊江島のガジュマルの木の上で生活したという日本兵ふたりの実話に基づく物語で、新兵役を藤原竜也、上官役を山西惇、また“語る女”に片平なぎさが扮する三人芝居。井上作品にもたびたび出演している藤原竜也に話を聞いた。

『木の上の軍隊』チケット情報

「木の上の軍隊」は本来、2010年7月に藤原主演で新作上演されることが決まっていた作品。だが井上の急逝により叶わず、代わりに追悼公演として井上の過去作『黙阿弥オペラ』を藤原主演で上演した経緯がある。

「当時はもちろんすごく残念で、井上先生の世界観に入る仕事をもっとしたかったという思いがありました。でも僕がひとつ恵まれてたなと思うことは、『ムサシ』というあて書きしてくださった新作に出させてもらったこと。『木の上~』はやりたかったけれども、あの作品が残ったことは僕の中で大きかったですね。『黙阿彌オペラ』で演じた五郎蔵も、先生が生前『藤原君にやらせるべきだ』という風に言ってくださった役だったので、先生の思いを受け継いで表現させてもらいました」

それから3年。「僕の中ではもうないものだと思っていた」という「木の上の軍隊」の上演が実現する。「井上麻矢さん(こまつ座社長、井上ひさし三女)や栗山さんの想いが、動かしてくれたんですね。ま、いろんな意見があると思いますよ。先生の遺志をどう受け継いだ作品になるのかわからないし、全く違うものになっている可能性もあると思う。正直な話、完成したホン(台本)を読んでみないとわからないですね。ただ僕としては演出家とキャストが一丸となって真面目に戯曲に向き合い、意味のある作品になればいいなと思います」

なお数年前には伊江島に足を運び、ふたりが生活した実物の木を見たりもしたのだそう。「先生ならではのユニークなというか、すごいところに題材を持ってきたなとは思いましたね。想いを伝えるという意味では特に作家と演出家は大きなプレッシャーを抱えていると思うけど、みんなが大変な思いをして作る作品って、きっといいものになると思うから」

戦争を心から憎んだ井上ひさしから、戦争を知らない若い世代の作家、演出家、キャストに手渡されたバトン。大事に受け継ぎ、温めながら、新たな物語が生まれる。

公演は4月5日(金)から4月29日(月・祝)まで東京・シアターコクーン、5月3日(金・祝)から5月6日(月・祝)まで東京・天王洲 銀河劇場にて。その後、愛知、大阪、愛媛、長崎、広島、福岡を巡演する。

取材・文:武田吏都

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