デヴィッド・ゲルブ監督

ヒュー・ジャックマンなどの海外セレブや世界の食通が通う東京・銀座「すきやばし次郎」。その店主・小野二郎の仕事に賭ける情熱を追ったドキュメンタリー『二郎は鮨の夢を見る』のデヴィッド・ゲルブ監督が、鮨と職人をテーマにした理由、その結果得た収穫を語った。

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昨年3月、たった2館で全米公開がスタートした本作は口コミで評価を広げ、最終的に250万ドル以上の興行収入を記録するという、ドキュメンタリー映画としては異例の大ヒット作。87歳の今も食と技に強い探究心を持っている店主・二郎の握る鮨は「ミシュランガイド東京」で6年連続、最高の三つ星評価を受け、その芸術的な味はゲルブ監督が本作の制作を決意したほど。「バランスが完璧なのさ! 巨匠だよ。ネタを出すタイミングまでが完璧で、その結果、口にした時の味がとにかくピュア。ネタ本来の味。初めてマグロやコハダを食べた時の感動が待っているのさ!」とゲルブ監督は興奮気味に店主・二郎の鮨を解説する。

鮨そのものとの出会いは、幼少の頃。メトロポリタンオペラの総帥、ピーター・ゲルブ氏が父親であるゲルブ少年は日本を頻繁に訪れ、海苔やしょうゆ、ごまという和食の味を成長期に覚え、成人して鮨が大好物になるのは自然なことだった。やがて映像の仕事をしながら、「ドキュメンタリーは旅そのもので、その取材対象にどこまで情熱を持てるかどうかが大切」という真理に気づいた頃、「鮨を追っていて、二郎さんに出会いました」と衝撃の出会いを回想する。「その時、完璧を極めようとする男の旅がいいと感じた。それは鮨以上に巨大な物語だった」。以後、客として通い、撮影許可を得る。約3か月、密着取材した。

そして、鮨の魅力はもちろん、名店を背負った職人たちのプライドと仕事への情熱、そして偉大な父(二郎)を持った二人の息子の敬意と葛藤までも扱い、クラシックの旋律に乗せて描く、まさしく“シンプルでピュア”な映像作品に仕上がった。ゲルブ監督も完成度に満足していて、撮影開始直後には知り得なかった過酷な職人の世界に震えたという。「二郎さんは87歳なのに、ようやく『自分の鮨が分かってきた』って言っていた。どうみてもパーフェクトの極みなのに、彼には自分の仕事の欠点しか見えていない! より向上するためには、何ができるかを考えている。とてもスリリングだが、興味深い世界だよね」。

『二郎は鮨の夢を見る』
2月2日(土)より、全国順次ロードショー取材・文・写真:鴇田 崇