鈴木優人  撮影:鈴木恵 鈴木優人  撮影:鈴木恵

バッハ・コレギウム・ジャパンとオールスター歌手陣が揃い、作曲家生誕450年を祝うモンテヴェルディのオペラ《ポッペアの戴冠》。バロック・オペラを楽しむための「ミニあるある」を指揮者・鈴木優人さんに聞いた。

オペラ《ポッペアの戴冠》チケット情報

【男役を女声が歌う】
バロック・オペラでは男性役を女声歌手が歌うことが多い。今回も、物語の中心になる2組の夫婦はすべて女性ないし女声(=カウンターテナー)が歌う。「当時の一番の主役はカストラート。普段は聴けない危ない歌声を聴くために劇場に通ったのです」カストラートは、変声前に去勢して声帯の発育を止めた男性歌手。しかし身体は大きくなるので、女声歌手の音域を男声歌手の力強さで発することができた。「カストラートが歌った役ですから、モンテヴェルディも男として描いているわけです。ネローネ(ネロ皇帝)をテノールが歌ったほうがドラマがわかりやすいという人もいますが、僕は逆に、1オクターヴ低いぶん声が埋もれてしまってわかりにくいと思う。ネローネの強さは、この音域でこそ表現できるのです」

【通奏低音が重要】
バロック音楽といえば通奏低音。今回もヴァイオリンなどの上声部6人に対して通奏低音が9人とゴージャス。「低音」とは言ってもチェンバロやテオルボなど和音楽器も加わって、全音域の音が多彩に鳴る。いわばそれだけでもオーケストラだ。「バロック・オペラがつまらないと感じた経験のある人は、たぶん原因のほとんどは通奏低音です。僕の一番の仕事は、絶対に通奏低音で退屈させないこと」《ポッペア》では、歌の伴奏は通奏低音のみだ。「歌詞を理解してイタリア語と一緒に弾けなければなりません。指揮者に合わせるのでなく、通奏低音奏者それぞれが歌い手の呼吸に合わせて弾く。だからこそ歌が自由に解放される。そうすると19世紀のオペラ以上に歌い手の競い合いが生まれるわけです。歌手はやっぱり目立ちたい。フィギュアの4回転ジャンプを見るように、それを楽しんでください」バロックというと、なんだか決まりごとが多いイメージもあったのだけれど、どうやらそれは真逆のようだ。自由な歌。なんと魅力的な言葉!

【歌は古楽とモダンの境目がない】
今回のキャストは、古楽のスペシャリストからバロック・オペラ初挑戦という歌手まで多彩な顔ぶれ。「とても気に入ってます。声だけでなく、役の性格にも合わせて配役を絞り込んだ。その時点で仕事の8割は終わったようなもの(笑)。器楽だと、古楽とモダンは楽器自体が違いますけど、歌にはその境目がない。『ポッペアやりたい人、この指とまれ』と声をかけたら、わーっと集まってくれた感じ。歌い手がそうなのだから、オペラ・ファンの皆さんも、バロックだからといって特別に警戒しないで楽しんで!」

公演は11月23日(木・祝)に東京オペラシティコンサートホール、11月25日(土)神奈川県立音楽堂にて開催。チケットは発売中。

取材・文:宮本明

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