竹中直人監督

俳優としてはもとよりミュージシャン、ナレーターなど幅広い分野で才能を発揮する竹中直人。『東京日和』『サヨナラCOLOR』など映画監督としても独特の色合いの作品を発表する彼が、今度は異色のヒロイン・ドラマ『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』に取り組んだ。

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今回、竹中監督が挑んだのは、「女による女のためのR-18文学賞」の大賞受賞作、蛭田亜紗子氏の「自縄自縛の私」の映画化。自らの体を自ら縄で縛る行為をする異色のヒロイン・百合亜が主人公だ。「ともすると俗悪な性的内容になる可能性がある題材。でも、僕は公私ともにストレスだらけの彼女にとって心のバランスが保て、解放できる唯一の解決法が自縄自縛行為に感じられました。そのとき、彼女の内なる“心”にフォーカスを当てようと思いました」。

作品は、会社と母親から過度のプレッシャーを受ける彼女が、自縛でどうにか生き辛い毎日を乗り越える日々を描写。そこからは、何かとストレスの多い現代社会を生きる女性たちの複雑な心模様が浮かび上がる。「僕は過去の作品でもそうなのですが、女優からインスピレーションを得ることが多いです。今回もそうです。主演の平田(薫)さんに触発され、このヒロイン像とドラマ世界に辿り着きました。素晴らしい出会いに感謝です」。この言葉通り、平田薫は見た目はごく普通でも、人に言えない秘密を抱えた百合亜を自然体で好演。ヒロインが光輝く魅力的な女性ドラマに仕上がっている。「女優は撮影中に役になっていく瞬間があるんです。自我を飛び越えて、その人物そのものになってしまうというか。顔も佇まいも役になってしまう瞬間がある。平田さんにもその瞬間があった。この瞬間に出会えることこそ、監督業の最大の喜びかもしれない」。

その監督業も気づくと20年を超えた。「映画監督に憧れはありましたが、まさかここまで続けてこられるとは。今回の作品の企画制作者である奥山(和由)さんにチャンスをいただいて実現したデビュー作の『無能の人』から、毎回“これが最後の1本”との思いで挑んでいます。映画作りは毎回がチャレンジ。今回も今までと全く違う境地の作品になりました。これからも撮り続けていけたら幸せですね」と本人。映画監督・竹中直人の新たな一面が垣間見える1作に注目したい。

『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』

取材・文・写真:水上賢治
衣裳協力:Iroquois