11月28日付日刊スポーツ1面  

「日本の技術はわれわれの選手より高いと思う。経験の差もある。シリアに比べ、日本の国内リーグは非常に強いリーグだ」とは、U-22シリア代表ハンカン監督の試合後の弁である。

 

11月27日・ロンドン五輪アジア最終予選・U-22日本代表に1-2で敗れた。また、ハンカン監督はこうも言った。「準備の差が大きくあったと思う。シリアはバーレーンとの初戦後、親善試合が2試合しかなく、それほどいい準備をできなかった」と。シリアは反政府デモ弾圧が続き、国内情勢は緊迫している。そんな中、U-22シリア代表は、日本と互角の戦いを演じたのだ。ハンカン監督は「日本は勝利にふさわしい試合をした」と語ったが、試合内容としてはドローが順当な結果だった。

前半終了間際、DF濱田のヘディングシュートで日本が先制したが、前半を通して「ゴールの予感」を感じさせたのはシリアだった。

後半になると日本の攻撃が厚みを増す。51分、FW大迫がペナルティエリア内に進入し、PK獲得かと思われたが、ファウルは取られず。58分、MF山田がGKと1対1からシュートを放つもGKのファインセーブに遭う。61分には大迫→大津→山田のパスワークで、山田が抜け出し、決定機と思われたが、山田はパスを選択し、チャンスをフイにする。極めつけは71分である。ドリブル突破から大迫がシュートを放つもGKのセーブに遭い、こぼれ球を山田が拾うもシュートまで持ち込めず、東がシュートを放つも山田に当たりゴールを奪えなかった……。

その4分後、まずい守備と10番・アルスマの個人技の高さが重なり同点にされてしまう。サッカー界には「決めるべきときに決めないと勝てない」という格言がある。ホームのチームが先制し、追加点のチャンスをことごとく外し、アウェイチームにカウンターで同点にされるという展開はサッカーではよくあることだ。確かに日本はシュートを打てるシーンでもパスを出すシーンが見え、対するシリアは同点弾を決めたアルスマをはじめ、ナックダリ、ファレス、アルマワスら攻撃陣がバイタルエリアでは常にシュートにプライオリティを置いたプレーを見せていた。シリアが「何が何でもゴールを奪う」という姿勢ならば、日本は「得点の仕方」にまでこだわったように見えた。ただ、試合の流れ通りに同点のまま終わらなかったところにU-22日本代表の成長の跡があったと言えよう。


今夏、柏からドイツ・ボルシアMGに移ったFW大津が86分にダイビングヘッドを決め、粘るシリアを振り切ったのだ。


   (JFA TV、試合前日の大迫、酒井、大津のインタビューより)

関塚監督はバーレーンとのアウェイ戦に続き、2試合連続ゴールを決めた大津を「彼の貪欲さを私は感じている。彼の姿勢をチームに植えつけていきたい」と讃えた。殊勲のゴールを決めた大津は「以前なら足できれいに決めようとしていたが、頭から飛び込んだ。形は関係なく決めるというのはドイツで学んだ」と胸を張った。

苦しい試合ながら、キッチリ勝ち点3を積み上げた指揮官は「選手たちがホームで勝ち点3を取りたいという気持ちを出してくれました。シリアは非常に強いチームだったが、相手に臆することなく、選手たちは成長した姿を見せてくれた」と満足そうな色を見せた。具体的には「球際は非常に強くなってきている、勇気を持っていけるようになっているなと思う」と、ルーズボールの攻防での成長に目を細めた。

そもそも、U-22日本代表はベストメンバーではなかった。清武と原口はA代表に選出され、攻撃の2枚看板を欠いたままバーレーン、シリアとの連戦に臨んだ。香川や宇佐美ら海外組は「五輪代表よりもクラブチームに重きを置く欧州」の習慣に則り、選出が見送られている。

国内情勢が緊迫しているシリアとは置かれた状況は比べるほどではないが、決して日本も万全ではなかった。厳しい状況ながら、若き日本代表は一戦ごとに成長しているのだ。若いタレントは重要な試合を経験することによって、わずかな期間で長足の進歩を見せることが多々ある。ドイツへ渡った大津だけではない。12月3日(土)にはJ1リーグ戦が最終節を迎える。控えに回ったFW永井や右サイドバック酒井らはヒリヒリするような優勝争いを展開している。海外ではなくとも、ターニングポイントとなる試合はある。 

あおやま・おりま 1994年の中部支局入りから、ぴあひと筋の編集人生。その大半はスポーツを担当する。元旦のサッカー天皇杯決勝から大晦日の格闘技まで、「365日いつ何時いかなる現場へも行く」が信条だったが、ここ最近は「現場はぼちぼち」。趣味は読書とスーパー銭湯通いと深酒。映画のマイベストはスカーフェイス、小説のマイベストはプリズンホテルと嗜好はかなり偏っている。