届いたハンバーガーを専用の袋に入れ、両手でしっかりと握り、かぶりつく。

肉汁とマヨネーズとソースが口の中で混然となり、「今ハンバーガーを食べている」と実感できる。分厚くて、ジューシーでレアなハンバーグの食感が堪えられない。これぞ肉好きのためのハンバーガーであった。

自家製はバンズ、パティだけにとどまらない。トマトにかけるマヨネーズも、ソースに混ぜるケチャップも手作り。

マヨネーズを別皿にわけてもらい、なめてみた。拙宅で使っているものとは雲泥の差だった。濃厚。酸味が弱く、卵の味が濃い。マヨラーとしてはぜひマヨネーズを製品化してほしい。

念を押すが、ここはパン屋の2階にあるイートインを兼ねたカフェだ。わかりやすくカフェと謳っているが、與儀からすれがバールやビストロ感覚なのだそうだ。

「自分は本格的な料理人ではありませんが、パン職人と料理人の間の、立ち位置にいたいと思っています」

フレンチやイタリアンのシェフの向こうを張る気持ちで料理を作っているというのだ。

與儀は「mikuni MARUNOUCHI」に併設されていたパン部門などで修業後、独立。ベーカリーカフェでパンを焼きつつ、ローストビーフを仕込んだり、肉を焼いた経験もある。研さんを積んだ上に、友人のフレンチやイタリアンのシェフから習った料理を提供することにした。

肉党が大好きなBLTサンドのベーコンも、ローストポークも、鶏もも肉のコンフィも得意としている。化学的な添加物はいっさい使っていない。

この店のもうひとつの人気メニューがサルシッチャ(ワンドリンク付きで900円)だ。イタリア料理のシェフから習ったレシピで手作りしている。

肉はもち豚。これにスパイス、シェリー酒、ハチミツを混ぜて練ったものを豚腸に詰める。手作り食材を挙げればキリがないが、サルシッチャに添えるキャロットラペもドレッシングも自家製。

サルシッチャに限らず、ハンバーガーもベーコンもローストポークもパンも、昨年授かった子どもや、喜んで食べてくれる客の身体を考慮し、できる限りまっとうな料理を提供すべく日々努力している。

なぜそこまで突き詰めないと気がすまないのか。與儀に尋ねた。

「もともと大のジャンク好きでしたが、独立して3年後の33歳の時、腰をやっちゃったんですよ。それがきかっけで身体をいたわり、体質改善をするため、食べ物のことを真剣に考えるようになりました」

小麦は北海道産など国産小麦を引くことにした。製粉会社や農家にも会い、できる限りきちんとした食材を使うように心がけるようになっていった。

今も時間の許す限り生産者に会いに行く。彼らがどうやって産物を育てているのか、自分の目で確認することにしている。

「生産者が一生懸命作ったものを自分の手でおいしいパンや料理に仕上げたいですね。そしてなによりも生産者と消費者の架け橋になりたいと思っています」

ひとつ残念なのは、肉好きのためのカレーパンがないことだ。けれどその代わりに、與儀が自分でおろした魚で仕込んだ「魚介の自家製カレーパン」がある。カレーパンというよりは、カレーベースのブイヤベースのような味わいだった。

「パン屋だけど、ハンバーガーならハンバーガーショップには負けたくないし、サルシッチャならイタリアンのサルシッチャにも負けたくありません。料理人には負けない味を出したい。朝から夜まで働き、どうせやるならちゃんとしたものを作り、食べてほしいんです」

パン職人であり、料理人でもある與儀の、偏った自己満足なのかもしれない。でも、パン屋であってパン屋ではないこんな店があってもいいと思う。

旨い肉を食べさせてくれるのだから、肉好きとしては大歓迎である。

nukumuku
東京都世田谷区太子堂5-29-3
電話/03-6805-5411
営業/1階SHOP 火曜~土曜8時~21時、日曜8時~19時
2FCAFE 8時30分~18時、金・土曜8時30分~20時
定休日/月曜、第1・3・5火曜

東京五輪開催前の3歳の時、亀戸天神の側にあった田久保精肉店のコロッケと出会い、食に目覚める。以来コロッケの買い食いに明け暮れる人生を謳歌。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』、『自家菜園のあるレストラン』、『一流シェフの味を10分で作る! 男の料理』などの他、『笠原将弘のおやつまみ』の企画・構成を担当。