鳥のつくねよりも大きな団子が入っているかと思えば、粒粒のひき肉も混じっている。なんだろ、この味? 豆腐なしの麻婆豆腐のようでもあり、タコライスのようでもあるが、これまで食べたことのない味と食感だった。辛くはないが、スパイシーで風味豊か。

ピンク色のご飯がこれまた不思議な味わい。餡をかけて食べるのが一番だが、トマトやオリーブオイルの旨味を含んでいるので、ご飯だけ食べても飽きが来ない。

「卓上にある特製ニンニクだれや、春巻きの皮フライ(共に無料)をトッピングしてみてください」

萎澤にすすめられ、ラードで揚げた春巻きの皮をひき肉ライスにかけてみた。パリッと揚がった春巻きの皮が餡を含み、愉快な食感を楽しめる。ひき肉ライスに、春巻きの皮フライをかけることを思いついたところが面白い。

基本的にはひき肉ライス一本勝負だが、トッピングメニューがいくつか用意されている。

一番人気は、トマト、エメンタールチーズ、ゆで卵が盛られた「少年の夢」(1,150円)。次に頼む人が多いのは、「ちょいワルオヤジのペポーゾ」(1,780円)。黒毛和牛のスネ肉を2時間煮込んだトスカーナの伝統料理「ペポーゾ」がトッピングされている。黒コショウがきいているので、これまたひと味異なる風味を鑑賞できる。

少年の夢
ちょいワルオヤジのペポーゾ

店内で食べるときは日替わりスープが付く。丸鶏、鶏ガラ、香味野菜を7時間煮込み、チキンスープを作る。これをベースにしたスープが濃厚で、身体に優しい味わいが嬉しい。この日は卵スープだった。

東南アジアの屋台料理のようだが、中国料理やイタリアンの香りもする。世界各国で綿々と食べられてきた料理や食文化が凝縮された、ひき肉料理の傑作と呼びたい。

カウンター6席しかないので、いつも行列ができるらしい。少々待つかもしれないが、新しい天体以上の発見を体験できるはずだ。

ひき肉少年
東京都港区白金1-11-15
営業時間/11時30分~20時00分
電話/03-5420-1929
年中無休

東京五輪開催前の3歳の時、亀戸天神の側にあった田久保精肉店のコロッケと出会い、食に目覚める。以来コロッケの買い食いに明け暮れる人生を謳歌。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』、『自家菜園のあるレストラン』、『一流シェフの味を10分で作る! 男の料理』などの他、『笠原将弘のおやつまみ』の企画・構成を担当。