『ZANNA ザナ ~a musical fairy tale~』舞台写真 『ZANNA ザナ ~a musical fairy tale~』舞台写真

オフ・ブロードウェイ発のミュージカル『ZANNA ザナ ~a musical fairy tale~』が2月18日(月)、東京・シアタークリエで開幕する。初日に先がけて行われたゲネプロを取材した。

舞台となるのは、同性同士のカップルが当たり前で、異性愛者が差別される“あべこべ”の世界。チェスが花形部活でアメフトがマイナーだったり、ミロがハードな飲み物だったりと、様々な価値が逆転している。普段マイノリティとされている側から見たら夢のようであろう世界は、私たちに「普通とは一体何か?」というシリアスな問いを投げかけるが、ストーリー展開はあくまで軽やか。誰もがありのままの自分でいられる社会を、という強いメッセージを、魔法使いの高校生が恋のキューピッドとして活躍するラブ・コメディの中で浮かび上がらせる仕掛けが鮮やかだ。

脚本・音楽・歌詞を手がけたのは、当時イェール大学の学生だったティム・アシート。無名の若者がほぼひとりで書き上げたというエピソードは、『RENT』のジョナサン・ラーソンや『イン・ザ・ハイツ』のリン=マニュエル・ミランダを彷彿とさせるが、事実アシート作の音楽はそれらに負けず劣らず名曲揃い。作品世界を数分で印象付けるオープニング・ナンバーから、せつないソロ、ミュージカルの王道を行く四重唱、ポップなお持ち帰りチューンまで、多彩な楽曲の数々が才能を物語る。

そのアシートが創り出した世界を、演出・訳詞の小林香が丁寧に、日本人に分かりやすい形で完成させた。セットはシンプルだが、そこに衣裳や照明、随所に小ネタをちりばめた小道具、そして8人のキャストが豊かな彩りを加えている。渡部豪太、高垣彩陽、田中 ロウマら主要キャストのハイテンションかつ嘘のない演技もさることながら、抜群の歌唱力とルックスをある種“封印”して冴えない高校生に徹したSpi、DJ役として声の演技だけで『ZANNA』ワールドの男子特有のお茶目さを表現した岡田亮輔ら、脇を固めた役者の達者さも光る。

特筆すべきは、8人全員の作品に対する揺るぎない自信だ。10年以上前にアメリカで作られた作品を日本で初めて披露する彼らに、「今の日本で受け入れられるだろうか」という疑問や不安が少しでも残っていたら、この公演はオフ作品の“紹介”に過ぎないものとなっただろう。アシートの思いのすべてを自分たちの中に吸収し、「どうだ、これが俺たちのミュージカルだ!」と言わんばかりに堂々と歌い踊る姿が、作品のメッセージをまっすぐに伝えて魅力的だった。

公演は2月23日(土)まで。

取材・文:町田麻子(Gene&Fred)