左から、仲村トオル、白井晃  撮影:源 賀津己 左から、仲村トオル、白井晃  撮影:源 賀津己

『オセロ』といえば、シェイクスピア四大悲劇の中でも平明な構造をもった作品として知られる。軍人オセロやその妻デズデモーナら登場人物を突き動かすのは、現代の我々でも覚えのある等身大の嫉妬や欲望だ。劇団活動以外ではシェイクスピア劇初演出となる白井晃が注目したのも“何故、人は嫉妬するのか”という、まさにその点。キャスティングには、高潔だが世事に疎いオセロに仲村トオル、彼に純粋な愛を捧げるデズデモーナに山田優と、新鮮な顔合わせが実現した。過去の作品でも名タッグを見せてきた白井と仲村に、本作への想いを聞いた。

舞台『オセロ』チケット情報

「日常的で卑近な感情を描いたこの物語を、ずっと演出してみたいとは思っていたんです。だからオセロ役をトオルさんにと思いついた時には、思わずニンマリしました」と白井。仲村も「公演の内容も聞かずに、白井さんの作品と聞いただけで出演を決めました」と絶大な信頼を寄せる。続けて「正直言えば、これまでシェイクスピア作品について考えたことすらありませんでした。でも白井さんと話していて感じたのは“この物語は自分たちのことじゃないか”という実感ですね」と語る。

仲村が本作に「激しく混乱した」ほど共鳴したその理由は、「400年間、いつの時代も我が事のように観客の心に響いてきた作品の力。あとは、前回の舞台でもそうだったんですが、白井さんによって俳優自身の隠していた感情が引き出されると感じたから」と言う。「俳優というのは、演じることで自分の中にある汚い部分を吐き出してバランスを取っている部分があるんです。僕も今回、封印している醜い嫉妬心を役を通して吐き出すことで、今後の人生のバランスを取ることになるんだろうなとすら思えて」と仲村は話す。

隣で微笑みながら聞いていた白井は「僕は仲村さんの中に醜い部分を見たわけではもちろんなくて(笑)、毅然とした態度や仕事へのストイックな姿勢がオセロに通じるのではと思ったんですよ」と返す。「ただ、抑えこんでいる裏の感情にプツッと穴が開いたとしたら、仲村さんからどれほどのエネルギーが放出されるのか。演出家として、毅然さが崩壊する姿を見てみたいという欲望は確かにありますね」と断言して、仲村が思わず笑い出すひとコマも見られた。

「この作品は古典劇ではあるんだけれど、コスチュームや美術などはできるだけ華美さを削ぎ落として、なぜ人間は嫉妬するのか、またなぜ人は排他的であるのかという本質を抽出して見せたい。役として語って動いているのか、それとも俳優の本質から出てくるものなのかすら曖昧にして観客に提示できたら」と白井は語る。誰も見たことのない白井版『オセロ』。その開幕が、今から待ち遠しい。

東京公演は6月9日(日)から23日(日)まで世田谷パブリックシアターにて。その後、25日(火)・26日(水)愛知・名古屋市青少年文化センターアートピアホール、29日(土)・30日(日)兵庫・兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールにて上演。チケットぴあでは、3月7日(木)午前11時より東京公演のWEB先着先行「プリセール」を実施。

取材・文:佐藤さくら