左から、秋山真太郎、紫吹淳、酒井美紀、玉木宏、別所哲也、徳山秀典 左から、秋山真太郎、紫吹淳、酒井美紀、玉木宏、別所哲也、徳山秀典

ベトナム戦争を撮影するために単身現地に乗り込み、直後に撮った写真「安全への逃避」で1966年のピュリツァー賞を受賞した、フォトジャーナリストの澤田教一。『ホテル マジェスティック ~戦場カメラマン澤田教一 その人生と愛~』は、無口で不器用な男が青森からジャーナリズムの最前線に飛び込み、世界的な栄誉に輝いたゆえの孤独と苦悩までを彩り豊かに描いた舞台だ。澤田を演じる玉木宏にとっては、これが満を持しての初舞台。3月7日、初日を控えたゲネプロを、新国立劇場・中劇場で観た。

舞台『ホテル マジェスティック』チケット情報

1956年。11歳年上の気丈で優しい女性サタ(酒井美紀)と結婚した澤田教一(玉木)は、「カメラでサタさんを幸せにしたい」という一念で、青森の写真店からUPI東京支局に転職する。65年にはベトナム戦争真っ只中のサイゴンに渡り、現地の支局員・大河内(別所哲也)に追い返されそうになりながらも、現地に留まって撮影を敢行。澤田の写真は直後にハーグ世界報道写真展でグランプリを取り、あのピュリツァー賞まで受賞する。なかなか帰国しない澤田を追ってやってきたサタは、澤田の使命感と覚悟を聞くと、逗留先のホテル マジェスティックで生活を共にすることを決意するのだが…。

玉木は初舞台ながら、声の良さに明瞭な発声が印象的。冒頭、津軽弁を駆使した玉木と酒井によって展開する澤田とサタの出会いが微笑ましく、玉木は気持ちを言葉にすることが苦手で不器用な澤田を自然に演じて、これまでのイメージを覆すほどだ。その一途さは澤田がトップジャーナリストになった後も変わらず、それゆえに「サタさんがいるから、頑張れるんじゃ」というセリフが普遍的な夫婦愛を表して胸に響く。小さい体からエネルギーを放つサタ役がハマっている酒井、当時の空気感を出しつつ舞台を引き締める別所、米軍の傭兵ながらも当時サイゴンにいた多くの青年の葛藤を伝える湯川役の徳山秀典ら、キャストたちのバランスもいい。

ゲネプロ後の囲み会見では、「共演の皆さんにたくさん助けていただいて、この日のためにずっと稽古してきました」と充実の表情を見せた玉木。「初舞台で初座長なのに、芝居の面でも皆を引っ張ってくれました」と話す別所に、玉木は照れた様子を見せながらも「ひとりでも多くの方に観ていただいて、よかったなと思ってもらえるようにしたい」と改めて語った。「登場人物それぞれの想いが重なり合っている物語。ぜひ観て、温かい気持ちになってください」と笑顔で話す酒井の隣で、舞台上の夫婦さながらに玉木がうなずくひとコマも見られた。ロビーでは、玉木が現在のベトナムで撮影してきた写真も多数展示。舞台と写真の両方で、澤田が伝えたかったメッセージに想いを馳せるのも一興だろう。東京公演は、2013年3月17日(日)まで新国立劇場 中劇場にて。その後、3月20日(水)から24日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、3月26日(火)から27日(水)まで名古屋・名鉄ホールにて上演。チケットは発売中。

取材・文 佐藤さくら