『クラウド アトラス』を手がけたトム・ティクヴァ、ラナ&アンディ・ウォシャウスキー

『マトリックス』シリーズで映画界に革命をもたらしたラナ&アンディ・ウォシャウスキー監督が、大きな手土産を持って10年ぶりに来日した。その“手土産”とはデヴィッド・ミッチェルによる同名小説を映画化した172分の超大作『クラウド アトラス』。常にラジカルな姿勢を貫く彼らにふさわしく、本作ではトム・ティクヴァ監督(『ラン・ローラ・ラン』)との共同監督という形でプロジェクトを立ち上げ。奇才監督3人のあふれる個性が刺激し合い、調和し合い、スクリーン上で美しいハーモニーを奏でる一大叙事詩が完成した。

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映画は19世紀の南太平洋、1973年のロサンゼルス、2144年のネオ・ソウル、“世界崩壊”後の2321年ハワイなど、時空を超えた6つの世界で繰り広げられる人間ドラマが相互リンクしながら、「我々はなぜ、ここにいる運命なのか?」という人生の命題を突きつける野心作。その壮大なスケールゆえ、映像化は不可能と言われ続けたが「だからこそ撮りたいと思った。ハリウッド的なメインストリームと実験的なアートフィルムの“中間”を奇跡的に歩んできた私たちにはぴったりな題材だったわ」(ラナ)。

不可能への挑戦という意味では、3人の監督が連名でメガホンを執るスタイルもまた、現在のハリウッドでは実現が難しいはず。そう指摘すると、アンディは「重い荷物を持つときは3人のほうが楽だからね(笑)。我々が集うことで、さまざまな対話が生まれ、愛と信頼を築き上げることができた。それこそが『クラウド アトラス』のテーマでもあるんだ」と必然性を力説。ティクヴァ監督によれば「テクニカルな分野以外は、あえて役割分担はしなかった」といい、「構想、脚本、キャスティング、撮影、編集…。映画作りの過程すべてに3人で取り組んだ。この喜びは、うまく言葉では説明できないな」と振り返る。

「うまく言葉では説明できない」とは、言い得て妙である。さまざまな時空とジャンルを縦断し、物語を幾重にも重ねる『クラウド アトラス』はその膨大な情報量ゆえ、鑑賞後は思わず言葉を失ってしまうほど。それでも想像の余白を残すことで、深い余韻に浸り、誰かと語り合いたくなる作品だ。「そう思ってもらえれば、とても嬉しい。人間同士の交流を通して、愛と善意の可能性が高まることを期待しているわ」(ラナ)。一方、「我々の最高傑作であることは間違いない。今はまだ、次回作を考える気持ちになれないよ」(アンディ)、「大満足していると同時に、先に進むのが少し怖いほど」(ティクヴァ監督)と男性陣は、自らが完成させた傑作に身震いしていた。

『クラウド アトラス』
3月15日(金)、全国ロードショー※取材・文・写真:内田涼

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