左から、成井豊、西川浩幸 左から、成井豊、西川浩幸

2009年に東野圭吾のベストセラー『容疑者χの献身』を舞台化し、各方面から高い評価を得た演劇集団キャラメルボックス。東野作品とのタッグによって劇団としての新しい方向性も示唆することとなった同劇団が、今度は昨年の中央公論文芸賞を受賞した『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の舞台化に挑む。店先に投げ込まれた相談の手紙に、無骨ながら温かな味わいで答える雑貨店の主人・浪矢雄治には、1年3ヶ月ぶりの劇団本公演出演となる西川浩幸。浪矢と奇妙な縁で結ばれてゆく若者3人組には多田直人、筒井俊作、渡邊安理。西川と、脚本・演出の成井豊に本作への意気込みを聞いた。

キャラメルボックス『ナミヤ雑貨店の奇蹟』チケット情報

ミステリー界のトップを走る東野圭吾が手がけたタイムトラベル・ファンタジー。これまで多くの“タイムトラベルもの”を上演してきたキャラメルボックスだけに、成井は読後すぐに「これは僕がやらなければ」と使命感のようなものを感じたと言う。「タイムトラベルの物語って、例えば主人公が日常のなかで小さな出来事に気づくことから始まりますよね。もしかしたら見過ごしてしまったかもしれない、そんな偶然の始まりがたまらなくワクワクする。この作品にも、そんな仕掛けがたくさん詰まっているんですよ」と成井は語る。

「浪矢には西川の姿が自然に重なりました」と言う成井に対して、当の西川は「浪矢役と聞いて、どんな人だっけと慌てて読み直した」と自覚がない様子。だが「原作の5つのお話を3.5本にまとめる予定なので、浪矢の存在は大きくなるはず」と構想の一端を成井が伝えると、「どんな風に舞台化されるのか、これからじっくり聞きたいと思います」と西川も笑顔。『容疑者χの献身』(初演)で東野作品を経験済みなだけに「この舞台に出られる喜びというのは、すごく感じていて。今年の2・3月に上演した劇団公演『隠し剣鬼ノ爪』『盲目剣谺返し』で27年ぶりに前説をしたのも、すべてはこの作品につながると思う気持ちから。リハビリとも思ってやっています」とその胸中を明かした。

「自分の2年間の闘病で感じたのは、病気って、少しでも良くなっているんだと信じられるかどうかが大きいんじゃないかということ。少しずつでも明日は今日よりいい日になるはず、という『ナミヤ~』のテーマは、そのまま僕自身の気持ちでもあるんです」と西川は改めて本作への想いを語った。「それってこれまでのキャラメルボックスの舞台とも重なるよね」と言う成井に、「だから成井はすごいと思う」と西川が真顔で返して、成井が照れくさそうにするひとコマも見られた。キャラメルボックスが紡ぐ希望の物語。その行方に注目したい。

公演は5月11日(土)から6月2日(日)まで東京・サンシャイン劇場、6月9日(日)から16日(日)まで兵庫・新神戸オリエンタル劇場にて。チケットの一般発売は、東京公演が3月17日(日)午前10時より、兵庫公演は4月7日(日)午前10時より。

取材・文:佐藤さくら