『まほろ駅前多田便利軒』の大森立嗣監督があの事件に挑む!

2013.3.18 18:34配信
大森立嗣監督

2008年6月に起きた秋葉原無差別殺傷事件はいまだ記憶に新しいに違いない。秋葉原の歩行者天国で日中に起きた通り魔事件は日本に大きな衝撃を与え、各マスコミでも大きく報じられた。『まほろ駅前多田便利軒』に続く大森立嗣監督の新作『ぼっちゃん』は、この事件に果敢に挑み、本質に鋭く斬り込む。作品に込めた真意を大森監督に訊いた。

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今回、事件と向き合った経緯を大森監督はこう振り返る。「犯人、加藤智大の犯行に及ぶまでの掲示板の書き込みを見たとき、強く思いました“この言葉から目を逸らしてはいけない”と。こういう事件が起きるたびに、“モンスター的殺人鬼”の“狂気の犯行”とひと括りにされてしまう。それはある意味、安易な現実逃避に過ぎない。彼は今の社会に確かに存在し、我々と同じ空気を吸い、同じ場所に立っていた。この事実ときちんと向き合うべきだと思いました」。

この想いのもと作られた作品は、派遣労働者の梶が主人公。人生に絶望し、鬱屈した日々をおくる彼の一挙一動を克明に描き出す。そこからはいじめ問題、派遣労働者の実状、人間同士のコミュニケーションの欠如、言われなき差別、格差社会など、現代の日本社会の全体像が自然と浮かび上がる。「彼を凶行に突き動かしたのはなんだったのか? それを食い止めるスケープゴードはなかったのか? この事件から考えなければならないことがたくさんあると思いました」。中でも見逃せないのは、不器用で女性に縁のない梶とは対極にいるはずの女性に苦労のないイケメン同僚が、実は同一線上にいること。このことが指し示す意味を我々は見過ごしてはならない。これについて大森監督は「ほんの些細な事情で梶のような境遇に陥る危険性が誰にでもある。実は他人事ではない。天国と地獄が限りなく紙一重。どちらに転んでもおかしくない。そういう社会に我々は生きている気がする」と語る。

いわば本作が映し出すのは、リアルな今の日本そのものの姿。現代の闇に鋭く斬り込む内容は、我々に大きな問いをいくつも投げかけるに違いない。また、それだけにとどまらず、『SRサイタマノラッパー』の水澤紳吾をはじめとするキャストの生身をぶつけた入魂の演技、その役者の未知なるポテンシャルをひきだした大森監督の演出、映像により強度を与える大友良英のジャズビートの音楽と、映画の醍醐味も溢れる。大森監督の“いまを生きる人々”と“映画”への強い想いがひしと感じられる力作に注目したい。

『ぼっちゃん』
公開中

取材・文・写真:水上賢治

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