――本気で入れ込むあまり、推しメンのライバルメンバーをバッシングしてしまうなど、いわゆるアンチの存在も目立ちますね。

昨年の夏まで“絶対的エース”としてセンターを務めていたあっちゃん(前田敦子)が、壮絶なバッシングに悩まされていたことは有名ですよね。2011年の総選挙で1位を獲得した際、「私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」という発言をしたことからも、その壮絶さがうかがいしれます。そしてこうしたバッシングが増長するのは、日本のウェブ社会の最大の特徴でもある匿名性に原因があるわけです。まともな人間であれば、目の前の少女に暴言を吐くようなことはしない。しかし、2ちゃんねるのような匿名メディアであればいくらでも気軽に悪口を書けてしまう。

匿名=悪と全ての場合において言えるわけではありませんが、匿名メディアが悪口を書きまくって盛り上がれる場所として機能していることは否めません。ただ、AKB48は、悪口も含めた匿名メディアともある意味で「結託」した、エンターテイメントとして成立しているんです。

――匿名メディアとの結託とは、とても興味深い視点です。

政治の風刺という文化があることからもわかる通り、人間は悪口を言うときほど言葉が冴えるというか、クリエイティブになるんですよね(笑)。日本ではなぜか政治ではなく、アイドルに対して風刺や皮肉が働いてしまう。
 

例えば、ぱるるには「ぽんこつ」というあだ名があるんです。きっかけは、ヲタの間で「ポンコツ」と評されていたこと。「俺たちの推しメン、ポンコツだけど愛そうぜ」という意味合いで、半分悪口、半分愛称という感じのあだ名だった。でも、そう言われていることにぱるる本人が気づいて「せめて、ひらがなで呼んで」と言ったことで、「ぽんこつ」というキャラ設定が公認のものとなり、今では雑誌のグラビアでの煽り文句としても普通に使われてしまっている(笑)。ぱるるスレの住人たちは、「いやー、俺たちがここでぽんこつとか言ってたら普通に使われるようになるなんて、何が起こるかわからないもんだよね」と嬉しげに語り合っている。

普通、2ちゃんねるに書かれた匿名の悪口など、相手にする価値がないとみなされるのが一般的です。普通は無視したりスルーしたりするわけです。でもAKB48の場合、2ちゃんねるの書き込みをメンバーも運営も見ている。自分たちの書き込みが見られていると分かっているからこそ、2ちゃんねるでの書き込みはさらに加熱する。中にはメンバーへの悪口も多いけれど、そこでは思いもよらないようなクリエイティブなあだ名やキャラ設定が生み出されて、しまいには運営が公式に採用する――というサイクルが、よくも悪くも回ってしまっている。ヲタが声を上げることで、メンバーや運営が実際に動く。つまり2ちゃんねるに書き込むことが、積もり積もってメンバーの「プロデュース」に参加することに繋がってしまうわけです。これもAKB48を巨大な育成ゲームたらしめるひとつの要素と言えるでしょう。
 

AKB48は“超越的存在”を何度も生み出す

――飛ぶ鳥を落とす勢いのAKB48ですが、人気メンバーの卒業発表が相次ぐなど、グループ全体が大きく揺れ動いていますね。

ソロデビューを果たしたばかりのゆきりん(柏木由紀)も、とあるテレビ番組で「そろそろ卒業しなきゃいけないのかなと思い始めた」などと発言していたようですし、今年はすでに卒業を発表したともちん(板野友美)だけでなく、もっと辞めていくかもしれませんね。

上位メンバーではありませんが、仲谷明香さんが3月に卒業しました。仲谷さんは声優になりたくてAKB48に入り、『AKB0048』で声を当てている。今回の卒業は、声優としての活動を本格化させるためといいます。AKB48は、それぞれが芸能界で夢を叶えるためのステップアップの場所という側面もあるので、仲谷さんの卒業はAKB48のコンセプトをむしろ体現していると評価されている。だから卒業が続くこと自体は、AKB48の本質にとってはダメージではないと思うんですよね。

僕個人としても、グループの新陳代謝が活発になるのは悪くないと思います。……これは卒業するのが推しメンではないから言えることかもしれませんが。いざ自分の推しメンが卒業するとなったら、こんな冷静ではいられないでしょうね……。