北条義時役の小栗旬 (C)NHK

 1月9日、2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がNHKで放送開始となる。「新選組!」(04)「真田丸」(16)を手掛けた三谷幸喜のオリジナル脚本の下、源平合戦から鎌倉幕府誕生に至る時代を背景に、幕府の最高権力者に上り詰めた2代執権・北条義時の生涯を描く物語だ。ちょうど2年前、本作の制作が発表され、「主演・小栗旬」が明らかになったとき、「ついに来たか!」という期待で、胸が高鳴ったことを今も覚えている。

 かつて小栗が「西郷どん」(18)に出演した際、筆者は取材で大河ドラマの主演に対する印象を尋ねたことがある。大河ドラマの常連でもある小栗の主演作を期待するファンも多いに違いないと思ったからだ。そのときの答えは、次のようなものだった。

 「全てやり切ったときの達成感や、そのときに自分に返ってくるものも大きいに違いありません。ただその一方で、ひたすら出口の見えないトンネルを走っているような状態が続くと思うんです。そうすると、不安になったり、苦しくなったり、自分を見失う瞬間もあるはず。僕だったら、途中でノイローゼになってしまうかも(笑)。だからこそ、それをやると決めて、続けてきたことに対しては、とてつもない尊敬を覚えます。それは(『西郷どん』主演の鈴木)亮平くんだけでなく、過去、大河の主演を務めてこられた方たちは、本当に皆さんすごいなと。ただその一言です」

 正直、多数の主演作を持つ俳優にしては、随分と慎重な発言だと当時はやや意外に感じたものだ。だがそれは、数々の大河ドラマに出演し、何人もの主演俳優を間近に見てきたからこその言葉だったと今は思える。その小栗が、今回のオファーを受けて主演を決意した裏には、並々ならぬ覚悟があったはず。そう考えたが故の、主演発表の際の胸の高鳴りだった。

 実際、発売中の本作関連ムック類に掲載されたインタビューで小栗は、今回の主演を決断するに当たって、周囲の大河主演経験者に相談したと語っている。間もなく私たちが目にする北条義時役には、そんな小栗の思いが詰まっているということだ。

 では、本作の主人公・北条義時とは、どんな人物なのか。番組公式サイトの人物紹介には、「田舎の平凡な武家の次男坊だったが、姉・政子が源頼朝の妻となり状況が一変。頼朝の右腕として、一癖も二癖もある坂東武者たちの間を奔走する」とある。また、小栗は当サイトのインタビューで、義時の人物像について次のように語っている。

 「義時はもともと、自分の置かれている立場にそれほど不満を持っていない青年だったんです。戦にもそれほど興味がなく、米蔵で米の勘定をしている方が楽しい、と言っていたぐらいで。(中略)そこから頼朝の横でさまざまな政治のあり方を見てきた結果、だんだん清濁併せ飲む計算高い人になってくる」

 さらに、制作統括を務める清水拓哉氏も、同じく当サイトのインタビューで「北条義時は最終的に『帝王』になる人物」と語っている。

 これらを踏まえると、「田舎でのんびり暮らしていた武家の次男坊が、さまざまな経験を経て、世を動かす『帝王』に変貌していく」という義時の人物像がなんとなく見えてくる。

 そんな義時を、小栗はいかに演じていくのか。大河ドラマには「役者が1人の人物を長期にわたって演じる」という大きな特徴がある。しかも、その人物像は不変ではなく、物語が進むにつれ、年齢を重ねて変化、成長していく。これは、他のテレビドラマや映画などの映像作品にはない大河ドラマだけのものだ。小栗が語っていた「全てやり切ったときの達成感や、そのときに自分に返ってくるものも大きいに違いありません」という言葉にも通じる部分だろう。

 近年の主演俳優を振り返ってみても、「麒麟がくる」(20)の長谷川博己、「青天を衝け」(21)の吉沢亮など、1年という時間(撮影期間として考えれば、それ以上)を費やした俳優の演技は、役者自身が役と一体化することでしか表現し得ない高みにまで達し、視聴者の心をつかんでいった。

 今回、小栗が挑むのは、そうした未知の領域だ。「青天を衝け」クランクアップ後のインタビューで吉沢は「転機になった作品は『青天を衝け』です、と一生いっているような気がします」と語っていたが、「大河ドラマの主演」という経験は、役者にとってそれぐらい大きな意味がある。そんな経験をこれから積み重ねていく小栗が1年後、どんな表情を見せてくれるのか。それを物語の進行とともにリアルタイムで見届けることができるのは、われわれ視聴者にとっても大きな楽しみである。

 小栗=義時の船出まで、もう間もなく。1年にわたるその旅の行方を、これから期待を込めて見守っていこうと思う。

(井上健一)