巨大ロボット迎撃に向かう自衛隊の戦車部隊。景気づけにとかけられるは、同じく伊福部昭氏が手がけた『怪獣大戦争』のマーチ。意気揚々と砲撃を開始するも、巨大ロボットからスピーカーが出現。「殺人光線か?」と警戒するも、そこから流れてくるのが、『ゴジラのテーマ』なのです。「ゴジラ」の威光を借りた巨大ロボットの前から、戦車部隊は撤退を余儀なくされます。

大の映画ファンでもある原恵一監督渾身のパロディシーン。『シン・ゴジラ』を観たあとだと、思わずにやけてしまいますが、『怪獣大戦争』マーチと『宇宙大戦争』マーチの違いを語るのは、また別の機会にしましょう。

『ゴジラ』シネマ・コンサート上映前には、音楽プロデューサーの岩瀬政雄氏と、平成『ゴジラ』シリーズプロデューサー・富山省吾氏、『シン・ゴジラ』監督・樋口真嗣氏によるのトークショーが実施。そこで樋口監督からも、こんな言及がなされました。

©2017 TIFF

「(庵野総監督による)脚本のト書きから、劇中で使用する音楽の指定がありました。『宇宙大戦争』の曲を入れたい気持ちはよくわかるが、『ゴジラ』ですらないじゃないかと(笑)。その理由は何かというと、カッコいいから」

(ちなみに『シン・ゴジラ』の劇中で『宇宙大戦争』のマーチが使用されたシーンは、無人在来線爆弾のあのシーンです)

『ゴジラ』音楽の理想の形ーーシネマ・コンサート

『ゴジラ』シネマ・コンサートでは、伊福部昭氏に師事していた和田薫氏が指揮を取り、上映に合わせた生演奏により、かの名曲たちが臨場感たっぷりに響き渡ります。

「平成ゴジラ」シリーズに伊福部昭氏が再登板されたとき、氏が提示した条件は「生演奏による一発撮り」でした。まさしく『ゴジラ』音楽の理想の形を体験できる、またとない機会となったのです。

©2017 TIFF

その演奏は、冒頭のスタッフロールで伊福部昭氏の名前が出たところから開始。その場にいたすべての映画ファンが、万感の思いを込めて敬意を表し、『ゴジラ』という作品を再体験しました。

何度もなく『ゴジラ』を観てきた人はもちろん、元の作品を知らなくても、音楽を聞けば「ゴジラ」を思い起こすことができる。そんな共通性を持ったうえで、音楽とともにスクリーンに描き出される「ゴジラ」のカッコよさ。そこに理屈はありません。

映像と音楽の力によって目の前に浮かび上がるゴジラに、それぞれ何を想うのか――。そのひとつひとつが映画をはじめとするアニメ・特撮映像作品の楽しみ方であり、魅力なのではないでしょうか。

アニメ誌・ゲーム誌の編集を歴任し、現在はWEBメディアのディレクターなどを務める編集ライター。アニメや映画取材をはじめ、日本全国津々浦々、お祭りや秘境取材などもする突撃派です。