辻仁成  撮影:源 賀津己 辻仁成  撮影:源 賀津己

作家、ミュージシャン、映画監督など、さまざまな顔を持つ奇才、辻仁成。その辻が、「物語、演出、音楽と、トータルでやれたのはすごく面白かった」と語るのが、舞台初進出を果たした「音楽劇『醒めながら見る夢』」(2011年)だ。そして再び辻が、「リーディングドラマ『辻仁成 その後のふたり』」で作・演出を手がけることに。辻が明かす「今までにない朗読劇」とはいかなるものか、その真相に迫る。

リーディングドラマ『辻仁成 その後のふたり』チケット情報

別れた男女が3年後に出会い、それぞれの過去と現在を言葉で綴っていく――。辻の最新作である小説『その後のふたり』は、ト書きがない戯曲のような文体で書かれている。もちろん、それを俳優が朗読すれば“朗読劇”にはなるのだが、辻が表現したいのはもっと多層的な世界。

「まず僕が作ったのは“文体”と“物語”。そのふたつの粒子を、俳優たちは“声”で受け取り、手前のステージで演じます。そしてその後ろでは彼らの分身であり、“身体”を使うダンサーたちが、この文体と声に反応し始めます。僕はこれを“心象のダンス”と呼んでいるのですが。さらにこの4人の真ん中には、“音”を奏でるピアノがある。つまりこれは“文体・物語・声・身体・音”という5つのエレメントを使った、1枚の絵画のような朗読劇なんです」。

バラエティ豊かな出演者も大きな魅力で、SOPHIAの松岡充やCHEMISTRY(※現在活動休止中)の川畑要、元宝塚歌劇団の朝海ひかるや紫吹淳など、特に歌唱力の高い顔ぶれがそろっている。その理由を辻は、「僕の武器が言葉ならば、俳優さんの武器は声。そのためにも“歌心”を大事にしたいと思い、結果ちょっと不思議なバランスのメンバーになりました。そんな彼らに期待するのは、“冷静と情熱のあいだ”。やはり人間というのは、冷静と情熱を行ったり来たりする、そのあいだにあるものですからね。ぜひ彼らには、そこを表現してもらいたいと思います」。

演劇の楽しさについて、「その時、その場所で、観客と俳優が邂逅する。その瞬間に自分も参加出来ることの素晴らしさ」だと辻は言う。しかも今回は男女キャストの組み合わせにより、12もの違った瞬間に出会える、非常に贅沢な機会なのである。また辻は本作を上演する120分ほどの時間を、「“醒めながら見る夢”の中にいるよう」と表現する。自らを「感覚の人間」と言い切る辻だけに、きっとこの朗読劇も頭で理解するのではなく、感じる舞台として、これまでにない感動を観客の心に残すことになるだろう。

■リーディングドラマ『辻仁成 その後のふたり』
4月6日(土)~4月14日(火) 天王洲銀河劇場
5月3日(金)~5月5日(日) 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
※アフタートークを開催する公演日もあり
※チケットは発売中

取材・文:野上瑠美子