2. 帰っちゃう学生編

地方の遠距離就活生さんには、会社も配慮している。たとえば本来は別の日に行う面接を筆記試験と一緒の日に実施して、宿泊代や交通費の負担が軽くなるようにしてあげたり。もちろん筆記試験がだめだったら、双方が無駄な面接をすることになるのだが、それは仕方ないこと。

そこで、北海道からくる学生Aくんがどうしても当社を受けたいというので、特別に個別説明会と筆記試験、一次面接を同じ日に実施することにして、学生さんに伝えると、「ご配慮ありがとうございます」との返事。電話もなかなか好印象で期待をもっていた。

相当遠方からだったので、朝一の飛行機で間に合う時刻に、参加者一名の会社説明会開始。筆記試験も無事に終わって、「これで午前中は終わりです。ご飯でも食べてきてくださいね。貴重品はちゃんと持って」というと、なぜか悲しい顔をして、立ち去るAくん。「ご飯が出るとでも思ったのかな。まさかね」と思いつつ、午後の面接の準備をしていました。

午後1時15分、面接の時間です。しかしAくんは現れません。それから15分たっても現れないので、携帯に電話してみると、「電波が届かない・・」のメッセージ。この仕事ながくやっていると、途中でいなくなってしまう人もいるんです。しかし北海道から来ていなくなるとは・・・。念のため、筆記試験を採点すると96点、難しいと言われる当社の筆記でこの得点はなかなかとれない、実に惜しい状態でした。

すこしそのことも忘れかけた数日後、Aくんからメールが?「せっかく配慮していただいたのに、ご期待に添えず申し訳ございませんでした。貴社のご発展を心よりお祈り申し上げます」??? 
期待って? え?え?

あわてて、Aくんに電話すると、
「いや貴重品を持って行けといわれたので、落ちたと思い・・・。帰りました」
「いや一応、貴重品は盗難の危険があるから言っただけ。面接あったのに」
というと、Aくん「ええーーーー」。飛行機だったから携帯を切っていたんですね。

後日Aくんは、再度飛行機で来社、今度は一次面接と二次面接を同じ日におこなって、無事内定。10年経った今はサブマネージャーとして働いています。地方の学生さんは本当に大変です。
 

3. これが正装です編(ノンフィクション)

毎年の恒例行事、内定式の日。役員全員のスケジュール、会場の雰囲気チェック、内定者への連絡など、人事は結婚式場のスタッフのように動き回ります。ある意味会社と内定者の結納式の様なものですから、内定者にも間違いがあってはいけないので、文書で服装等を指示、「正装でお越し下さい」と書いて、到着した頃に電話をかけて郵便が到着したかどうか確認。絶対に間違いが許されない式典なのです。しかし、やはり人事がどんなに式を無事に終わらせようとしても、学生さんは許してくれません。

ある年の内定式、今年は40人ほどの内定者が集まる事になっておりました。もちろん全員正装でと指示、まちがっても私服で来るなよ・・・と思っていたら・・。なんと柔道着で現れる内定者登場。

「B・・Bくん、その格好は?」
「あ、正装というんで、普段のスーツではなくて、やはり正装で来ました」とあっけらかんと答えられ、内定者全員と会社側全員の視線をすべて集めながら、Bくん着席。しかも、不運は続き、今年の内定者決意表明はBくんだったのです。今更他の人に替えることもできず、さらに目立つ壇上で、柔道大会の開会式が開かれてしまいました。

閉会後、人事全員が呼び出され、社長から、「もうちょっとちゃんと指導しなさいよ。でもまあ、面白いヤツじゃないか。でも来年はだめだぞ」とおしかりとお褒めの混じった複雑な社長訓示をうける羽目に、人事全員が席に戻ったとき、ある社員が一言。
「Bくん、入社式も柔道着で来たらどうしましょう」
全員が凍り付きました。